急速に進化するテクノロジー業界において、プロジェクトに最適なプログラミング言語を選択することは、効率性や将来のスケーラビリティを左右する重要な決断です。現在注目されている言語の中でも、RustとPythonはそれぞれ独自の強みを持ち、異なるニーズや分野に適しています。
Pythonは、シンプルな構文と高い生産性、豊富なエコシステムを備えており、データ分析、人工知能(AI)、機械学習、Web開発といった分野で広く利用されています。一方で、Rustは卓越したパフォーマンスとメモリ安全性に優れており、システムプログラミング、ゲーム開発、高性能アプリケーションに最適な選択肢となっています。
本記事では、Rust vs Python(RustとPython比較)をテーマに、パフォーマンス、スケーラビリティ、メモリ管理、コミュニティ、キャリアの機会など多角的に分析し、2025年におけるプロジェクトでどちらの言語を選ぶべきかを明確にしていきます。
Rust言語の概要
RustはMozillaによって開発され、2015年に正式リリースされた比較的新しいプログラミング言語です。
その最大の特徴は、高いパフォーマンスとメモリ安全性を同時に実現している点です。CやC++並みの速度を持ちながら、所有権システム(オーナーシップ)によりガベージコレクションを使わずに安全なメモリ管理を可能にしています。

さらに、Rustは並行処理にも強く、マルチスレッド環境でもデータ競合を防ぐ仕組みを持つため、高負荷システムやリアルタイムアプリケーションに適しています。
近年では、WebAssemblyやブロックチェーン(例:Solana, Parity)、システム開発、ゲーム開発など幅広い分野で採用が進んでおり、信頼性と効率性を重視する企業から注目を集めています。
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Python言語の概要

Pythonは、Guido van Rossumによって開発され、1991年に初めてリリースされた多目的プログラミング言語です。シンプルで読みやすく、学習しやすい構文と、広範な開発者コミュニティにより、現在最も人気のある言語の一つとなっています。
- Pythonのメリット
学びやすく、使いやすい: 自然言語に近い構文で、初心者に適しています。
高い開発生産性: 豊富なライブラリとフレームワークがあり、開発時間の短縮に役立ちます。
豊かなエコシステム: NumPy、Pandas、Django、Flask、TensorFlowなど、強力なツールが多数統合されています。
クロスプラットフォーム: Windows、macOS、Linuxで安定して動作します。
- Pythonのデメリット
パフォーマンスの限界: インタープリタ言語であるため、RustやC++のようなコンパイル言語よりも実行速度が遅いです。
メモリ消費量の多さ: 自動でメモリを管理しますが、より多くのリソースを消費する傾向があります。
非効率なマルチスレッド: GIL (Global Interpreter Lock)がCPUのマルチコアを最大限に活用する能力を制限します。
ただし、パフォーマンスやメモリ効率を重視する場合は、Rustのようなコンパイル型言語が選ばれるケースも増えています。
RustとPythonの基本的な違い
パフォーマンス
Rust:コンパイル型言語であるRustは、非常に高いパフォーマンスを発揮します。ソースコードは直接マシンコードにコンパイルされるため、インタプリタによる中間処理が不要です。その結果、C++に匹敵する高速な実行速度を実現し、計算量の多い処理や高負荷なシステムに最適です。
Python:インタプリタ型言語であるPythonは、Rustに比べると実行速度が遅くなります。NumPyやTensorFlowといった数値計算ライブラリはC++で実装されていますが、Python自体の処理性能はRustより低く、大規模なパフォーマンス要求には不利です。

出典:Programming language or compiler benchmarks
RustとPythonのパフォーマンス比較(Binary-trees Input: 18)
実行速度(Time)
- Rust の実行時間は 1259ms ~ 1443ms。
- Python(PyPy) は 1165ms で完了し、このタスクにおいては Rust よりわずかに速い。
- 一方、CPython や Pyston では timeout(時間切れ) となり、処理を完了できなかった。これは、標準的な Python 実装の限界を示している。
メモリ使用量(Peak-mem)
- Rust は 33.8MB ~ 49.8MB の範囲で動作。
- Python(PyPy) は 96.8MB を消費し、Rust の約 2~3 倍。
- CPython や Pyston は約 40MB と Rust に近い数値を示したが、処理そのものを完了できなかった。
結論
- 速度: Python(PyPy)は一部のケースで Rust に匹敵する速度を発揮するが、標準実装の CPython では処理が完了できず、大きな差がある。
- メモリ効率: Rust は安定して少ないメモリで処理でき、特に PyPy と比較すると大きな優位性を持つ。
総合的に見ると、Rust は高い安定性と効率性を持ち、大規模・高負荷のアプリケーションにより適していると言える。
スケーラビリティ
Rust: 卓越したパフォーマンスと安全な並行処理能力により、Rustは、大規模なシステムを構築し、数百万のリクエストを同時に処理する必要がある拡張性の高いシステムに特に適しています。RustはCPUのマルチコアを最大限に活用できるため、分散システムやマイクロサービスでのパフォーマンスを最適化するのに役立ちます。
Python: Pythonは、通常、中小規模のアプリケーションに適しています。マルチプロセス (multiprocessing) を使用して拡張することは可能ですが、Global Interpreter Lock (GIL)は大きな制約となり、計算負荷の高いタスクでCPUのマルチコアを最大限に活用することを難しくします。この問題を克服するため、開発者はしばしば、アプリケーションの重要な部分をC++のような高性能言語と統合する必要があります。
メモリ管理
Pythonも多くの現代的なプログラミング言語と同様に、メモリ安全性を確保するように設計されています。Pythonは主に参照カウント方式を採用し、循環参照などを解決するためにガベージコレクションも併用しています。ただし、手動でのメモリ管理は不要な一方で、パフォーマンス面ではRustに劣ります。
Rustは、所有権システムとボローチェッカーという独自のメモリ安全性確保方法を採用しています。これにより、コンパイラが厳格なルールをチェックし、参照やポインタがその指し示すデータの生存期間を超えないように保証します。
人気とコミュニティ

出典:Stack Overflow Developer Survey 2025
Rustは、Stack Overflow Developer Survey 2025において「最も好かれている言語(Admired)」で72.4%という圧倒的な支持を獲得しました。これは全てのプログラミング言語の中で最も高い数値であり、一度使った開発者から非常に高く評価されていることを示しています。一方で、「学びたい・使いたい言語(Desired)」は29.2%とPythonより低く、コミュニティ規模はまだ小さいですが、その分熱意のある開発者が多く、活発なエコシステムが急速に拡大しています。
Pythonは「Desired」で39.3%、「Admired」で56.4%を記録し、いずれも上位に位置しています。幅広い分野(データサイエンス、AI/ML、Web開発、教育など)で活用されており、初心者から上級者まで支持層が非常に厚いのが特徴です。長年の歴史と圧倒的なユーザー数により、Pythonは世界最大級の開発者コミュニティを形成しており、豊富なライブラリ・フレームワーク・学習リソースが揃っています。
Rustは「熱狂的なファンが多い新星」、Pythonは「幅広い分野で浸透した王道」という位置づけが明確に表れています。
キャリアの機会
Python
Pythonはその高い汎用性と安定したコミュニティ基盤により、キャリアの機会が非常に豊富です。データサイエンス、機械学習、Web開発、自動化といった幅広い分野で活用されており、求人数も非常に多いのが特徴です。Pythonはプログラミング言語の人気ランキングで常に上位に位置しており、プログラマーが多様な業界で安定したキャリアを築くことを可能にします。
Rust
RustはまだPythonほど求人が多くはありませんが、システムプログラミング、組み込みシステム、ブロックチェーン、WebAssembly (Wasm) といった専門性の高い分野で需要が急増しています。特筆すべきは、Stack Overflow Developer Surveyで長年にわたり「最も好まれている言語」として連続してトップに立っている点です。

出典:キャリアの機会
Jobicy (2025) のデータによると、日本におけるRust開発者の収入は業界平均を上回ります。
- ジュニアRust開発者: 年収 $62,640 ~ $83,520
- シニアRust開発者: 年収 $125,280 ~ $187,920
これらの数字は、Rust開発者は求人数こそ少ないものの、給与水準が高く、最先端技術分野に集中していることを示しています。これにより、Rustは高いパフォーマンスと安全性が要求される分野で専門性を高めたいエンジニアにとって、魅力的な選択肢となっています。
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プロジェクトにRustとPythonのどちらを選ぶか?
プロジェクトでRustとPythonのどちらを選ぶかは、プロジェクトの目的、要件、チームのスキルセットによって異なります。それぞれの言語が特に適しているケースを以下にまとめました。
Rustが適するケース
Rustは、パフォーマンスとメモリ安全性が最重要視されるプロジェクトに最適です。
- システムプログラミング: オペレーティングシステム、組み込みシステム、ゲームエンジンなど、ハードウェアに近いレベルでの制御や高速処理が求められる場合に適しています。
- WebAssembly (Wasm): Webブラウザ上でネイティブに動作する高性能なアプリケーションを開発する場合、Rustはその主要な言語の一つとして強力な選択肢になります。
- ブロックチェーンと分散システム: メモリの安全性と信頼性が不可欠な分野であり、Rustの所有権システムはバグを未然に防ぐため、この種のプロジェクトに非常に向いています。
- 高負荷のバックエンドサービス: 高い並行処理能力と低レイテンシーが求められるサーバーサイドアプリケーションの開発に適しています。
Pythonが適するケース
Pythonは、開発スピードと汎用性を重視するプロジェクトに最適です。
- データサイエンスと機械学習: 豊富なライブラリ(Pandas, NumPy, TensorFlowなど)と使いやすい構文により、データの分析、モデルの構築、AI開発のプロトタイプ作成に最も広く使われています。
- Web開発: DjangoやFlaskといったフレームワークが成熟しており、WebサイトやAPIの迅速な開発が可能です。
- スクリプトと自動化: サーバー管理、バッチ処理、タスク自動化など、日々の作業を効率化するためのスクリプト作成に優れています。
- 迅速なプロトタイピング: アイデアを素早く形にし、検証したい場合に、Pythonは開発コストと時間を大幅に削減できます。
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プロジェクトに最適な言語選定は、開発効率や将来の拡張性を大きく左右します。
Relipaは、RustとPythonの両方に精通したエンジニアチームを擁しており、要件定義からアーキテクチャ設計、開発まで最適な選択をご提案可能です。
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RustとPythonの組み合わせ利用
現代の開発では、単一の言語ですべての要件を満たすことは稀です。特に、RustとPythonは、それぞれの強みを活かし合うことで、非常に強力なソリューションを構築できます。

提供されたデータ「Rustと併用される言語」を見ると、Rustを仕事で使用する開発者のうち、30%がPythonも併用していることがわかります。この高い併用率は、両言語が互いに補完し合っていることを明確に示しています。
組み合わせのメリット
- Pythonの高い開発生産性を活用して、アプリケーションのロジックやユーザーインターフェース部分を迅速に構築します。
- Rustの優れたパフォーマンスとメモリ安全性を活用して、ボトルネックとなる部分(データ処理、計算、リアルタイム通信など)を最適化します。
このアプローチにより、開発チームはPythonの豊富なエコシステムと学習の容易さを享受しつつ、Rustの比類のないパフォーマンスと信頼性を、アプリケーションの最も重要な部分に適用できます。例えば、機械学習モデルのバックエンドや、データ処理パイプラインの高速化部分をRustで書き、その結果をPythonで分析・可視化するといった使い方が一般的です。
まとめ
RustとPythonは、それぞれ異なる強みを持つプログラミング言語です。Rustは高いパフォーマンスとメモリ安全性を兼ね備え、大規模システムやブロックチェーン、WebAssemblyといった分野に最適です。一方、Pythonはシンプルな構文と豊富なライブラリにより、AI・機械学習やデータサイエンス、迅速なプロトタイピングに広く活用されています。
両者は競合関係というよりも補完関係にあり、実際のプロジェクトではRustとPythonを組み合わせることで、開発スピードと実行効率の両方を実現できます。重要なのは、プロジェクトの要件やリソースに応じて最適な言語、あるいは組み合わせを選択することです。
Relipaは9年間にわたり、日本企業向けにWeb3・AI・ブロックチェーン開発を支援してきました。RustとPythonの両技術スタックに精通したエンジニアが在籍しており、要件定義からアーキテクチャ設計、開発・運用まで一気通貫でサポート可能です。
RustとPython、どちらを選ぶべきか迷われている企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。