2025.10.14
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RustとIoT:IoT開発者が今注目する理由と実践事例

RustとIoT:IoT開発者が今注目する理由と実践事例

IoT(Internet of Things)は、製造、ヘルスケア、スマートホームなど、あらゆる分野で急速に拡大しています。
しかし、IoTデバイスはリソースが限られており、同時に高い安全性と安定性が求められます。
そこで注目されているのが、「Rust」というプログラミング言語です。
本記事では、なぜRustがIoT開発に最適なのか、その理由と具体的な活用例を解説します。

IoTとは?

IoT(Internet of Things)とは、インターネットを通じて「モノ(Things)」がデータをやり取りし、相互に連携・制御を行う仕組みのことです。

IoTとは?

例えば、スマート家電がスマートフォンと連動したり、工場のセンサーが稼働状況を自動的に送信したりするなど、さまざまな分野で活用されています。
IoTは、人の操作を介さずにデータ収集と制御を実現することで、効率化・省人化を可能にする技術として注目されています。

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IoTとは? 構造、動作、企業や現代生活におけるIoTの身近活用

IoTの現状と市場の拡大

IoT Analyticsのレポート

出典:IoT Analytics

IoT Analyticsのレポート(2024年9月発表)によると、世界のIoTデバイス接続数は2024年末時点で約188億台に達し、2030年には約411億台にまで拡大すると予測されています。
これは、今後数年間で年平均成長率(CAGR)14%前後という非常に高い成長を意味します。

特に注目すべきは以下の分野です:

  • セルラー5G IoT(Cellular 5G IoT):年平均成長率 62% で最も急成長します。
  • LPWA(Low Power Wide Area):年平均成長率 21%。低消費電力通信がIoT拡大を支えています。
  • WLAN(無線LAN)WPAN(Bluetooth, Zigbeeなど) も安定的に成長します。

このように、IoT市場はインフラ、産業、ヘルスケア、スマートホームなど幅広い分野で拡大を続けており、今後10年で世界のIoTデバイス数が2倍以上になる見込みです。

既存言語のジレンマ

  • C/C++: パフォーマンスは最高水準ですが、メモリ管理の複雑さに起因するメモリ安全性のバグ(メモリリーク、バッファオーバーフローなど)がセキュリティ脆弱性の最大の原因となっています。
  • Python/JavaScript: 開発速度は速いですが、リソースが限られた組み込み環境では実行速度やメモリ使用量において非効率的です。

Rustは、この「パフォーマンスと安全性」のトレードオフを解消するために設計されました。

以下の比較表は、主要なIoT開発言語の特徴をまとめたものです。

主要なIoT開発言語の特徴

Rustは「性能・安全性・開発効率」のバランスに優れ、IoT分野で注目を集めています。

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【徹底比較】RustとPython、どちらを選ぶべきか?

Rustを使ったIoT開発のメリット

Rustは、IoT分野において「高性能」「メモリ安全性」「セキュリティ」「開発効率」「拡張性」を兼ね備えた注目のプログラミング言語です。
ここでは、Rustを使ったIoT開発がなぜ注目されているのか、その具体的なメリットを紹介します。

Rustを使ったIoT開発のメリット

高いパフォーマンス

RustはC/C++に匹敵する実行速度を実現します。
コンパイルによって効率的なネイティブコードを生成するため、メモリやCPUリソースが限られたIoTデバイスでも高速に動作します。
また、ガベージコレクタを使用しないため、リアルタイム性が求められるアプリケーションにおいても、予期しない一時停止が発生しません。

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実例:

  • 温度・湿度センサーなどの環境モニタリングシステムで、Rustとembedded-halを使用することで、Pythonと比較して約20〜30%高速にデータ処理を行うことができます。
  • Rust製の組み込みOS「Tock OS」は、スマートウォッチや医療機器などで高い性能と安定性を両立しています。

メリット:

  • センサーデータ処理の遅延を削減できます。
  • 消費電力を抑え、バッテリー寿命を延ばすことができます。

メモリ安全性

Rustは、所有権(ownership)借用(borrow)の仕組みにより、コンパイル時にメモリエラーを防止します。
これにより、nullポインタアクセスやデータ競合、メモリリークなどの問題を未然に防ぐことができます。
長期間稼働するIoTデバイスにおいて、これらの特性は大きな信頼性向上につながります。

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Rust所有権とは?初心者向けにルール・借用・ライフタイムの基礎を解説

実例:

  • スマートホームシステムで、tokioを利用して複数のデバイスを非同期で制御する際、データ競合のない安定した動作を実現しています。
  • IoT向けOS「RIOT OS」では、Rustを導入することで、ESP32などのデバイス上でランタイムエラーを大幅に削減しています。

メリット:

  • メモリ関連のバグによるクラッシュを防止できます。
  • 医療機器や車載システムなど、長時間稼働するシステムの安定性を高めることができます。

高い信頼性とセキュリティ

IoTデバイスは常にネットワークに接続されているため、セキュリティリスクが非常に高い分野です。
Rustは、バッファオーバーフローuse-after-freeといった脆弱性を防ぐ安全な設計が特徴です。
そのため、IoTアプリケーションのセキュリティと信頼性を大幅に向上させることができます。

実例:

  • Rustで開発された監視カメラシステムでは、TLSライブラリ「Rustls」を使用して、安全なデータ通信を実現しています。
  • Microsoft Azure Sphereの一部プロジェクトでも、Rustを採用し、クラウド接続IoTデバイスの信頼性を高めています。

メリット:

  • ネットワーク攻撃や不正アクセスからデバイスを保護できます。
  • 24時間稼働するシステムでも安定した運用が可能です。

開発効率の向上

Rustは、Cargo(パッケージ管理ツール)やCrates.io(ライブラリ共有プラットフォーム)を中心とした強力な開発エコシステムを持っています。
また、embedded-haltokiorticといったIoT向けのライブラリが整備されており、効率的な開発が可能です。
Rustは学習コストこそ高いものの、ランタイムエラーが少ないため、結果的に開発全体の効率を高めることができます。

実例:

  • スマート農業システムの開発で、Raspberry Pi Pico上にRustを用いたファームウェアを実装。probe-rsembedded-halにより、C言語と比べてデバッグ時間を短縮できました。
  • Knurlingツールを利用することで、ArduinoやSTM32上でのログ出力やデバッグを効率化しています。

メリット:

  • 開発・テストの期間を短縮できます。
  • バグの少ないコードにより、保守コストを削減できます。

WebAssemblyやAI連携への拡張性

RustはWebAssembly(WASM)に対応しており、IoTアプリケーションをWebやクラウドに容易に拡張することができます。
また、tch-rstractなどの機械学習ライブラリを活用することで、IoTデバイスがよりスマートなデータ処理を行うことも可能です。

実例:

  • 交通モニタリングシステムで、RustコードをWebAssembly化し、ブラウザ上でリアルタイムにデータを可視化しています。
  • 医療IoTデバイスでは、tch-rsを用いてAIモデルを組み込み、血糖値の予測などをデバイス上で実行しています。

メリット:

  • IoTアプリをWebやクラウドにシームレスに展開できます。
  • AIとの連携により、デバイスが自律的に分析・最適化を行うことができます。

RustによるIoT開発を検討してみませんか?

Rustは、高いパフォーマンスとメモリ安全性を両立できる言語として、IoT分野で急速に注目を集めています。
Relipaでは、Rustを活用したIoTソリューションの設計・開発・運用をワンストップで支援しています。
PoC(概念実証)段階から量産フェーズまで、最適なアーキテクチャ設計と堅牢な実装を提供いたします。

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【2025年最新版】Rustとは?特徴・メリット・おすすめ5つのフレームワーク・活用事例までわかりやすく解説

Rustを使ったIoT開発の課題と注意点

Rustは「高いパフォーマンス」と「メモリ安全性」を兼ね備えた優れた言語ですが、IoT開発においてはいくつかの課題や制約も存在します。

Rustを使ったIoT開発の課題と注意点

学習の難しさ

Rustの構文はPythonやJavaScriptに比べてやや複雑であり、特に所有権(ownership)や借用(borrowing)、ライフタイム(lifetime)の概念を理解するには時間がかかります。
そのため、組み込みエンジニアにとっては最初のハードルが高いと言えます。

組み込み向けエコシステムの問題

Rustのエコシステムは急速に成長していますが、C/C++のように長年にわたって開発された豊富なドライバやライブラリに比べると、一部のマイコンやセンサーではまだ対応が不十分な場合があります。

バイナリサイズの大きさ

Rustでビルドした実行ファイルは、C/C++に比べてややサイズが大きくなる傾向があります。
そのため、メモリ容量が非常に限られたIoTデバイスでは注意が必要です。

RustとIoTのエコシステム

IoT開発におけるRustの採用が進むにつれて、Rustを中心としたエコシステムも急速に拡大しています。特に、組み込み開発・リアルタイム処理・省電力通信といったIoT特有の要件を満たすためのツールやフレームワークが整備されつつあります。以下では、代表的なRustベースのIoT関連プロジェクトを紹介します。

Tock OS

Tock OS

Tock OSは、Rustで記述されたオープンソースの組み込み向けオペレーティングシステムです。安全なメモリ管理とマルチタスク処理を両立しており、セキュリティを重視するIoTデバイスに最適です。Tock OSのモジュール構造により、各アプリケーションが独立して動作するため、障害が発生しても他のプロセスに影響を与えません。

Embassy

Embassyは、非同期(async)プログラミングを活用した組み込み向けRustフレームワークです。省メモリ環境でも効率的に動作する設計で、マイクロコントローラ(MCU)上での同時処理を容易に実現します。特に、ネットワーク通信やセンサー制御など、リアルタイム性が求められるIoT領域で注目を集めています。

RTIC(Real-Time Interrupt-driven Concurrency)

RTIC(Real-Time Interrupt-driven Concurrency)

RTICは、リアルタイムシステム向けの軽量フレームワークで、割り込み駆動型のタスク管理を安全に行えます。Rustの所有権モデルと組み合わせることで、メモリ競合を防ぎつつ高い応答性能を実現します。産業IoT(IIoT)やロボティクス分野でも採用事例が増えています。

Rust × IoTの実例

Rustは、高い安全性とパフォーマンスを兼ね備えたシステムプログラミング言語として、IoT(Internet of Things)分野での採用が進んでいます。ここでは、実際にRustが利用されているIoTの事例を紹介します。

スマートホームデバイス

スマートホームでは、センサーや家電など多くのデバイスがネットワークに接続され、相互にデータをやり取りしています。Rustは、省電力で信頼性の高い制御が求められる環境に適しており、温度管理システムや照明制御、スマートロックなどの開発に活用されています。
近年では、Espressif社のESP32マイクロコントローラ向けにRustの開発環境が整備されつつあり、組み込みIoT分野でのRust利用が広がっています。

産業IoT(IIoT)

製造業や物流業では、IoT技術を活用して機械の稼働状況や温度、圧力などをリアルタイムで監視する仕組みが普及しています。Rustは、リアルタイム性とメモリ安全性を両立できるため、機器間通信の信頼性を高めつつ、システム障害のリスクを低減することが可能です。
実際に、BoschやSiemensなどの企業では、組み込みシステムの一部でRustを検証・採用する動きが見られます。

ネットワークゲートウェイ・エッジデバイス

IoTシステムでは、クラウドとデバイスを中継するゲートウェイやエッジデバイスが重要な役割を果たします。Rustは軽量で高効率な並行処理を得意としており、データの前処理やローカルAI推論を行うエッジコンピューティングに適しています。
例えば、AWS IoT GreengrassやAzure IoT Edgeなどのプラットフォーム上で、Rust製モジュールを用いた安全な通信・処理が実装されています。

センサーネットワーク

センサーからの大量データを効率的に処理するためには、高速で安全なプログラミングが求められます。Rustはゼロコスト抽象化により、低メモリで高速な動作を実現できるため、環境モニタリングやスマートアグリカルチャー(農業IoT)などの分野での利用が進んでいます。

まとめ

Rustは、IoT開発における「パフォーマンスとセキュリティのトレードオフ」を解消する唯一無二のシステムプログラミング言語です。
IoTデバイスの増加やセキュリティリスクの高まりが進む中、Rustがコンパイラレベルで保証するメモリ安全性は、システムクラッシュや脆弱性のリスクを根本から排除します。

特に、長期稼働が求められる産業IoTや高信頼性デバイスの分野において、Rustの採用は次のような価値をもたらします。

  • 長期コストの削減:デバッグやセキュリティパッチ対応にかかるコストを大幅に削減できます。
  • 市場投入までのスピード向上:堅牢なコードベースにより、高品質な製品を安心してリリースできます。
  • 高い拡張性:WebAssemblyやEdge AIへの柔軟な対応が可能です。

Rustへの投資は、長期的な信頼性と競争力の向上という形で確実に成果をもたらします。
Relipaは、embedded-hal や RTIC などのRustエコシステムを活用し、リソース制約のある組み込み環境でも最高水準のセキュリティとパフォーマンスを両立させるソリューションを提供しています。

Rust導入によるIoT開発の最適化や、既存システムの性能改善をご検討中の企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
Relipaのエンジニアチームが、御社のIoTプロジェクトを「安全」から「強靭」へと導きます。