企業におけるAI活用は「情報生成」から実際に業務を実行するAIへと大きく進化しています。その中で注目を集めているのが、AI Agent と Agentic AI という2つの概念です。どちらも大規模言語モデル(LLM)を中核に据えながら、単なるチャットボットを超え、業務の自動化・高度化を実現する技術として導入が進んでいます。
一方で、
- 「AI Agent と Agentic AI の違いが分かりにくい」
- 「どちらを選ぶべきなのか判断できない」
- 「自社業務に本当に適用できるのか不安」
といった声も多く聞かれます。
本記事では、AI Agent と Agentic AI の違いを明確に整理し、それぞれの特徴・構成要素・業務ユースケースを比較しながら、企業が導入判断を行う際の実践的なポイントを分かりやすく解説します。
AI Agent の知識
AIエージェント(AI Agent)とは?
AI Agent(AIエージェント)とは、人間が与えた目標や指示に基づき、一定の自律性のもとで環境を観察・判断・行動し、特定のタスクを実行するAIシステムを指します。
従来の一問一答型チャットボットとは異なり、AI Agentは大規模言語モデル(LLM)を中核として、必要に応じて 計画立案(Planning)、ツール利用(Tool Use)、記憶(Memory)、推論(Reasoning)などの機能を組み合わせることで、単なる応答生成を超えた「実行能力」を発揮します。
例えば:旅行計画を依頼された場合、AI Agentはスケジュール案を提示するだけでなく、ウェブ検索によって最新のフライト情報を取得し、予約用APIを呼び出すなど、事前に定義された範囲内で実務的な処理を進めることが可能です。
なお、複数のAgentが協調し、目標の再設定や高度な意思決定を自律的に行うシステムは、一般に「Agentic AI」として区別されます。2025年現在、この両者の境界は一部で重なりつつありますが、自律性の度合いとシステム構成の複雑さが主な違いとされています。
AIエージェント(AI Agent)の主な特徴
AI Agentの主な特徴は以下のとおりです。

1. 目標指向型(Goal-oriented)
与えられた目標を達成するために、タスクをサブタスクへ分解し、あらかじめ定義されたルールや制約のもとで順序立てて実行します。
2. 限定的な自律性(Limited Autonomy)
人間が逐一指示しなくても次の行動を判断できますが、完全に独立した意思決定を行うわけではなく、人間の監督やガードレールの下で動作するのが一般的です。
3. ツール連携と実行能力(Tool Use & Action)
外部API、ウェブ検索、コード実行、業務システムなどと連携し、データ取得、ファイル操作、システム更新などの実世界のタスクを実行できます。
4. 推論・評価能力(Reasoning & Evaluation)
実行結果をもとに、次の行動を調整することが可能です。ただし、長期的な自己改善や進化を自律的に行う能力は限定的であり、設計に依存します。
5. 記憶による継続性(Memory)
短期的な会話コンテキストや、必要に応じて外部データベースを用いた情報保持により、タスク実行の一貫性を保つことができます。
6. 導入の柔軟性
LangChain、CrewAIなどのフレームワークを活用することで、PoCから本番環境まで比較的スムーズに構築・拡張できます。
一般的な構成要素
高度なAI Agentでは、主に以下の要素で構成されるケースが一般的です。

1. 大規模言語モデル(LLM)|Brain
- 自然言語理解・生成および基本的な推論を担う中核コンポーネント。
- GPTシリーズ、Claude、Llamaなどが利用される。
2. 計画立案(Planning)
- タスク分解(Task Decomposition):複雑な目標を複数の実行可能なステップに分割
- ReActループ:思考 → 行動 → 観察 → 再思考を繰り返し、進捗を制御
3. 記憶(Memory)
- 短期記憶:現在の会話や処理に必要なコンテキスト
- 長期記憶:Vector Database や RAG を用いた情報保存・検索(※必須ではない)
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4. 行動空間/ツール(Action Space / Tools)
Agentが外部と連携するための実行手段です。
- ウェブ検索(Google / Bing など)
- コード実行(Python Interpreter 等)
- API連携(Gmail、Slack、Salesforce など)
- カスタムツール(データベース操作、ファイル管理 など)
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Agentic AIの知識
エージェント型 AI(Agentic AI)とは?
Agentic AI(エージェンティックAI または エージェント型 AI)とは、人間が設定した目的や制約を前提としつつ、目標達成のための計画立案・意思決定・実行・評価を自律的に行うAIシステムを指します。
AI Agentが「特定タスクの実行」に重点を置くのに対し、Agentic AIは、複数のタスクやプロセスを横断的に管理し、状況に応じて計画を更新しながら行動する点が大きな特徴です。
単一のAIモデルではなく、複数のエージェントやコンポーネントが協調するアーキテクチャとして設計されるケースが一般的です。
エージェント型 AI(Agentic AI)の主な特徴
Agentic AIの主な特徴は以下のとおりです。

1. 高度な自律性(High Autonomy)
人間の継続的な指示に依存せず、目的達成に向けて行動方針を自ら決定します。
ただし、実運用ではセキュリティや品質確保の観点から、Human-in-the-loopを組み込む設計が主流です。
2. 動的な計画立案と再計画(Dynamic Planning)
実行中に得られる結果や環境変化を踏まえ、計画を継続的に見直し・再構築しながらタスクを進めます。
3. マルチエージェント協調(Multi-agent Collaboration)
役割の異なる複数のAI Agentが連携し、分業・調整・評価を行うことで、複雑な業務プロセスを処理します。
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4. 自己評価と改善(Evaluation & Adaptation)
実行結果を評価し、次の意思決定に反映します。
完全な自己進化ではなく、設計された範囲内での適応・改善が行われます。
5. 業務プロセス全体の自動化
単発のタスクではなく、業務フロー全体を横断的に自動化できる点が、AI Agentとの本質的な違いです。
一般的な構成要素
Agentic AIは、システム全体としての自律性を実現するため、以下の要素で構成されることが一般的です。

1. エージェント群(Agents)
- 役割ごとに分担された複数のAI Agentです。
- 例:プランナー、実行担当、監視・評価担当など。
2. オーケストレーター(Orchestrator)
- 各エージェントの状態や進捗を管理し、タスクの割り当てや優先度調整を行います。
3. 計画・意思決定モジュール(Planning & Decision Making)
- 目標に基づき、中長期の計画立案や再計画を行う中核コンポーネントです。
4. メモリ・知識基盤(Memory & Knowledge Base)
- 長期記憶(Vector Database、RAG)
- 業務ルールや履歴データを統合し、意思決定の根拠として利用します。
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5. ツール・実行基盤(Tools & Execution Layer)
- API、業務システム、データベース、クラウドサービスなどと連携し、実世界でのアクションを安全に実行します。
6. ガバナンス・制御(Governance & Control)
- セキュリティ、ログ管理、権限管理、Human-in-the-loop を含む リスク制御層です。
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AI Agent と Agentic AI の違い【比較表】

AI Agentは、「人間が決めた作業を、より速く・正確にこなすAI」であり、PoCや部分的な業務効率化に適しています。
一方、Agentic AIは、「目的達成のために、何をすべきかを考え、複数の行動を統括するAI」であり、業務プロセス全体の自動化や、継続的な意思決定支援に向いています。
具体的な業務ユースケース比較
ユースケース1:カスタマーサポート
| 項目 | AI Agent | Agentic AI |
|---|---|---|
| 対応内容 | FAQ自動応答、問い合わせ分類 | 問題分析・対応方針決定・エスカレーション管理 |
| 処理範囲 | 単一問い合わせ | 問い合わせ〜解決〜フォローまで一貫対応 |
| 連携 | FAQ DB、CRM検索 | CRM、チケット管理、社内通知、分析 |
| 効果 | 対応時間短縮 | CS品質・顧客満足度の継続改善 |
ユースケース2:営業・リード管理
| 項目 | AI Agent | Agentic AI |
|---|---|---|
| 主な役割 | メール文面作成、顧客情報整理 | リード評価、フォロー計画立案、次アクション指示 |
| 判断 | ルールベース・限定的 | 行動履歴・状況に応じた動的判断 |
| 実行 | 個別作業の自動化 | 営業プロセス全体の最適化 |
| 連携 | CRM、メール | CRM、MA、SFA、分析ツール |
ユースケース3:バックオフィス(経理・総務)
| 項目 | AI Agent | Agentic AI |
|---|---|---|
| 作業内容 | 請求書チェック、入力補助 | 月次処理計画、例外対応、業務改善提案 |
| 自律性 | 作業単位 | 業務フロー単位 |
| 人の関与 | 多い | 承認・監督中心 |
| 効果 | 工数削減 | 業務標準化・属人化解消 |
ユースケース4:IT運用・システム管理(DevOps)
| 項目 | AI Agent | Agentic AI |
|---|---|---|
| 主な用途 | ログ分析、アラート要約 | 障害検知 → 原因分析 → 対応判断 |
| 対応範囲 | 単発作業 | 障害ライフサイクル全体 |
| 再発防止 | 限定的 | ナレッジ化・運用改善 |
| 価値 | 運用負荷軽減 | システム安定性向上 |
ユースケース5:経営・意思決定支援
| 項目 | AI Agent | Agentic AI |
|---|---|---|
| 提供価値 | レポート作成 | シナリオ分析・施策提案 |
| 判断支援 | 情報提供中心 | 意思決定プロセス支援 |
| データ活用 | 静的 | 動的・横断的 |
| 適用範囲 | 部門単位 | 全社・戦略レベル |
ここまでのユースケースを見て、「自社の業務にはどこまで適用できるのか」、「AI Agent で十分なのか、Agentic AI を視野に入れるべきか」と感じられた方も多いのではないでしょうか。
実際の導入では、業務内容・データ構造・既存システム・リスク許容度によって、最適なエージェント設計は大きく異なります。
Relipa では、具体的な業務をもとにしたAI活用の適用可否・導入ステップの整理を支援しています。
ユースケースを「理論」で終わらせず、自社業務に落とし込むための実践的なアドバイスをご提供します。
どちらを選ぶべきか?導入判断のポイント
AI Agent と Agentic AI は「どちらが優れているか」ではなく、目的・業務成熟度・体制によって適切な選択が異なります。導入判断の際は、以下の観点から整理することが重要です。
1. 自動化したい対象は「作業」か「業務プロセス」か
- AI Agent
- 単一または限定的なタスクを自動化したい
- 例:問い合わせ一次対応、レポート作成、データ収集、入力補助
- Agentic AI
- 業務全体を横断的に最適化したい
- 例:顧客対応フロー全体、営業プロセス、運用判断の自動化
作業単位なら AI Agent、業務単位なら Agentic AI
2. 判断・意思決定の複雑さ
- AI Agent
- 事前定義ルールや明確なゴールに基づく判断
- 判断の範囲が限定され、説明しやすい
- Agentic AI
- 状況変化を踏まえた動的判断
- 複数の選択肢を比較し、最適なアクションを選択
判断が単純なら AI Agent、複雑・多段なら Agentic AI
3. 人間の関与レベル(Human-in-the-loop)
- AI Agent
- 実行前後で人間が頻繁に確認・修正
- 運用リスクを抑えやすい
- Agentic AI
- 原則自律実行、人間は監督・承認役
- ガードレール設計が不可欠
慎重運用なら AI Agent、運用委譲なら Agentic AI
4. 導入コスト・技術成熟度
- AI Agent
- 比較的低コスト
- PoC(概念実証)から導入しやすい
- 既存ツールと段階的に連携可能
- Agentic AI
- 設計・検証・運用コストが高い
- データ整備・業務設計が前提
スモールスタートなら AI Agent、戦略投資なら Agentic AI
5. 組織・データの準備状況
- AI Agent
- 業務ルールが明確
- データが部分的に整理されている
- Agentic AI
- 業務フローが可視化されている
- 横断データ(CRM、ERP、SFA 等)が連携済み
まとめ
AI Agent は、特定タスクを自律的に実行することで、業務効率化や人的負荷の軽減を実現する「実行型AI」です。一方、Agentic AI は、複数のエージェントが連携しながら、業務プロセス全体を継続的に最適化する「業務運営型AI」と位置づけられます。
重要なのは、どちらが優れているかではなく、自社の業務成熟度・データ基盤・リスク許容度に適した選択を行うことです。
2025年以降の実務では、AI Agent によるスモールスタート → Agentic AI への段階的拡張が、最も現実的かつ成功率の高いアプローチとなっています。AI活用は「導入」がゴールではなく、業務に定着し、価値を生み続けられるかどうかが問われます。自社にとって最適なエージェントアーキテクチャを設計することが、これからの競争力を左右する重要な鍵となるでしょう。
AI Agent や Agentic AI の導入は、単なる技術選定ではなく、業務設計・システムアーキテクチャ・データ基盤・運用体制まで含めた総合的な取り組みです。
Relipa は、AI・Web3・ブロックチェーン分野で9年以上にわたり、日本企業およびグローバル企業向けに数多くの開発・導入支援を行ってきました。「AIを作る」だけでなく、実業務で価値を生み続けるAI活用を重視しています。
Relipaが提供する主な支援内容:
- 業務・データ・リスクを踏まえた導入可否の評価
- AI Agent / Agentic AI の最適な選定と段階的導入の提案
- 拡張性・安全性を考慮したAIアーキテクチャ設計
- PoCから本番運用までを見据えた実装支援
- セキュリティ・ガバナンス・人間による監督設計への配慮
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