長年にわたり、C++はシステムプログラミングの世界を支配してきました。Unreal Engineのような有名なゲームエンジン、複雑なオペレーティングシステム、そして多くの組み込みシステムにおいて、C++はその卓越したパフォーマンスと柔軟性で知られています。
しかし、近年、ある新星が強力な挑戦者として台頭してきました。それがRustです。Stack Overflowの最新調査によると、Rustは8年連続で「最も好まれているプログラミング言語」に選ばれ、実に70%以上の開発者が「来年も使いたい」と回答しています。

果たしてRustは本当にC++の未来を担う代替言語なのでしょうか?それとも単なる誇張に過ぎないのでしょうか?
この記事では、両言語の最も重要な5つの違いに焦点を当て、特にパフォーマンスと安全性という2つの重要な側面を深く掘り下げていきます。そして、なぜRustがパフォーマンスを犠牲にすることなく安全性を達成できるのか、そしてなぜMicrosoft、Google、Amazonといった大手企業が重要なプロジェクトにRustを選んでいるのかを探っていきます。
C++とは?
C++は、1980年代初頭にビャーネ・ストロヴストルップ(Bjarne Stroustrup)によって開発された、汎用性が高く高性能なプログラミング言語です。C言語を基盤に構築されており、さらにオブジェクト指向プログラミング(OOP)の強力な機能(クラス、オブジェクト、継承、多態性 など)が追加されています。
コードの例:
#include <iostream>
int main() {
std::cout << "Hello, world!";
return 0;
}
アウトプット
Hello, world!
C++の特徴
オブジェクト指向プログラミング(OOP)のサポート
C++はオブジェクト指向プログラミングを前提に設計されています。
クラス、オブジェクト、継承(inheritance)、多態性(polymorphism)といった機能により、開発者はソフトウェアを明確な構造で設計し、管理しやすく、拡張性の高いコードを書くことができます。
- 例: 四角形、円、三角形ごとに面積や周囲長を個別に計算するコードを書く代わりに、共通のクラス
Shape
を作成し、その中に基本的な計算メソッドを定義できます。
その後、Square
、Circle
、Triangle
といったサブクラスを作り、それぞれで必要に応じてメソッドをオーバーライドすれば、コードは整理され、保守性や再利用性が大幅に向上します。
高いパフォーマンス
C++はソースコードを直接機械語にコンパイルするため、非常に高速に動作します。
また、手動でメモリを制御できるため、ハードウェア資源を最大限に活用でき、C++はゲームエンジン、オペレーティングシステム、組み込みシステムといった高性能が求められる分野での第一選択肢となっています。
- 例: 大規模な3Dゲーム(AAAタイトル)では、1フレームを描画するために数百万回もの複雑な計算が数ミリ秒以内に処理される必要があります。
もしC++のような高性能言語で書かれていなければ、60FPSの滑らかな動作を維持できず、カクつきが発生しプレイヤーの体験を損なってしまいます。
マルチパラダイム言語
C++はOOPだけでなく、手続き型プログラミング、テンプレートを活用したジェネリックプログラミング、ラムダ式による関数型プログラミングといった複数のスタイルをサポートしています。
そのため、さまざまなプロジェクトのニーズに柔軟に対応可能です。
- 例: データ処理を高速に行いたい場合は、単純な手続き型プログラムを書くことができます。
一方、異なる型に対して汎用的に動作するアルゴリズム(例えば、整数や文字列の両方をソートできる関数)が必要な場合は、テンプレートを利用できます。
豊富なエコシステムと巨大なコミュニティ
40年以上の歴史を持つC++は、STL、Boostといった標準ライブラリから、QtやOpenCVなどのフレームワークに至るまで、膨大なツール群を備えています。
さらに、世界中に広がる大規模なコミュニティは、問題解決のための強力なサポート源となります。
Cとの後方互換性と低レベル制御
C++の大きな強みのひとつは、C言語との互換性を持ち、大量の既存コードを再利用できることです。
さらに、C++はメモリやハードウェアを細かく制御できる機能を提供しており、これは現代の多くの言語では得られない特徴です。
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Rustとは?
RustはMozillaによって開発されたシステムプログラミング言語です。
2010年に登場し、システム開発における大きな課題である「メモリ安全性」を、性能を犠牲にせずに解決することを目的として設計されました。
Rustの主な目標は、JavaやPythonといった高水準言語が持つ安全性を提供しつつ、CやC++のような低水準言語が得意とするハードウェア制御や高性能処理を両立させることです。
その実現のために、Rustは独自の仕組みを採用し、ポインタやメモリ管理に関連する一般的なバグをコンパイル時に検出・防止できるのが大きな特徴です。
コードの例:
fn main() {
println!("Hello World!");
}
アウトプット
Hello, world!
Rustの特徴
メモリ安全性
Rustは、現在最も安全なプログラミング言語のひとつとして注目されています。
所有権(Ownership)と借用チェッカー(Borrow Checker)という独自の仕組みにより、CやC++で頻発するヌルポインタ参照や競合状態(Race Condition)といった深刻な不具合をコンパイル時に防止できます。
- 例:Linux Kernelプロジェクトでは、新しいコンポーネントの一部をRustで実装する取り組みが進められています。Rustのコードは全体のわずか0.1%に過ぎませんが、カーネルのあらゆる側面にわたって143個の個別ファイルが存在しています。

C・C++に匹敵する高いパフォーマンス
Rustはコンパイル型言語であり、直接機械語に変換されるため、CやC++と同等の高速な実行速度を誇ります。
さらに、Rustはガーベジコレクタを必要とせず、リソース管理を効率的に行えるため、処理の遅延を最小限に抑えることが可能です。

出典:Programming Language and compiler- Benchmarks
例えば「Hello World」プログラムの実行時間ではRustとC++の処理速度はほぼ同等であり、Rustはわずかに遅い結果を示すものの、メモリ安全性という大きな利点を備えています。
- 例:DropboxはRustを導入してデータ同期システムを再構築し、従来よりも高いパフォーマンスと運用コスト削減を実現しました。
安全な並行処理とマルチスレッド
Rustはマルチスレッド処理を前提に設計されており、所有権システムによって複数スレッドが同じデータを不正に同時アクセスすることを防ぎます。
これにより、大規模なデータ処理や高負荷なバックエンドシステムでも、安全かつ効率的に動作します。
- 例:DiscordはバックエンドのチャットシステムをRustで再設計し、数百万ユーザーを対象にメッセージ処理速度を大幅に改善しました。
急速に成長するエコシステムとコミュニティ
Rustはパッケージ管理ツールCargoと、ライブラリを集めたcrates.ioを中心に、開発エコシステムが急速に拡大しています。
また、Mozilla、AWS、Microsoftなど大手企業の支援により、Rustコミュニティは非常に活発で、開発者が安心して利用できる環境が整っています。
- 例:Amazon Web Services(AWS)はRustを公式にサポートしており、高いセキュリティとパフォーマンスを必要とするサーバーレス開発にRustを推奨しています。
Rustは、メモリ安全性、高性能、並行処理の安全性、そして成長するエコシステムという強力な特徴を兼ね備えています。
そのため、Rustは今後、セキュアで高性能なシステムを構築したい企業や開発者にとって、最も有力な選択肢のひとつになると考えられます。
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Rust vs C++:5つの主要な違い
メモリ安全性
これはRustが注目される最大の理由であり、C++との大きな違いでもあります。
C++:
C++はポインタと手動のメモリ管理(new/delete)を提供し、高い柔軟性と性能を実現します。しかし、その反面、ダングリングポインタ、メモリリーク、ダブルフリーなどの深刻なバグを引き起こしやすいというリスクがあります。スマートポインタ(smart pointer)によってリスクは軽減されましたが、最終的な安全性は開発者の経験に依存します。
Rust:
Rustは所有権(Ownership)と借用チェッカー(Borrow Checker)という独自の仕組みによって、メモリ安全性をコンパイル時に保証します。もしルールに違反するコードがあれば、コンパイラがエラーを出して実行を許しません。これにより、Rustプログラムではメモリ関連のバグをほぼ完全に排除できます。
並行性・スレッド安全性
マルチスレッドプログラミングは、高性能プログラミングにおける最大の課題の一つです。
C++:
C++でのマルチスレッド開発は非常に強力ですが、データ競合(Data Race) が発生しやすいという問題があります。これは、2つのスレッドが同時に同じメモリ領域へアクセス・書き込みを行う際に、適切な同期機構がないことで起こります。ロック、ミューテックス、セマフォなどを正しく管理する必要がありますが、その実装は複雑でバグを生みやすいのが現実です。
Rust:
Rustは所有権システム(Ownership)と借用チェッカー(Borrow Checker)の仕組みによって、データ競合をコンパイル時に防止 します。コンパイラがコードを検証し、2つ以上のスレッドが同時に同じデータに書き込みできないことを保証します。そのため、開発者はよりシンプルかつ安全にマルチスレッドプログラムを構築でき、信頼性の高い並行処理が可能になります。
パフォーマンスと抽象化
両言語とも高性能を誇りますが、アプローチは異なります。
C++:
C++は機械語に直接コンパイルされ、ハードウェアを低レベルで制御できるため、極めて高いパフォーマンスを実現します。しかし、多重継承や複雑なテンプレートによる抽象化は、ときに余分なオーバーヘッドを生む可能性があります。
Rust:
Rustも機械語にコンパイルされ、C++と同等の性能を発揮します。特筆すべきは「ゼロコスト抽象化(Zero-cost Abstractions)」という哲学です。イテレーターやトレイトなどの抽象機能を利用しても、実行速度に悪影響を与えることはありません。そのため、読みやすく保守性の高いコードを維持しつつ、高性能を確保できます。
開発体験とツール
プログラマーがC++とRustを使う際の開発体験には、大きな違いがあります。
C++:
C++には強力なIDEや豊富なツールが存在しますが、開発環境のセットアップは複雑になりがちです。ライブラリ管理も分散しており、多くの場合CMakeなどの外部ツールに依存します。さらに、特にテンプレートを多用したコードでは、コンパイラのエラーメッセージが分かりにくいという課題があります。
Rust:
Rustはよりモダンで開発者に優しい体験を提供します。Cargoという公式のパッケージマネージャ兼ビルドシステムが標準で用意されており、依存関係管理が非常にシンプルです。また、Rustコンパイラのエラーメッセージは分かりやすく、具体的な修正方法を示してくれるため、学習コストを大きく下げてくれます。
ユースケース
両言語ともに、それぞれ異なる分野で重要な役割を担っています。
C++:
C++は長い歴史を持ち、現在も多くの業界で採用されています。
- ゲーム開発: Unreal Engineなどの大規模ゲームエンジン
- OSやデバイスドライバ: Windows、macOS、Linuxなど
- 金融システムやHPC: 高頻度取引システムやハイパフォーマンスコンピューティング
Rust:
Rustは比較的新しい言語ですが、安全性と高性能を両立できる点から注目されています。

- コマンドラインツール (CLI tools): 最も高い割合でユーザーに利用されており、効率的で信頼性の高いコマンドラインツールを構築するための第一の選択肢となっています。
- システムプログラミング: LinuxやAndroidのコアコンポーネントを含む、オペレーティングシステムやデバイスドライバなどの開発に採用されています。
- ウェブ開発: 高性能なウェブサービス、特にサーバーバックエンドやWebAssemblyアプリケーションの構築に使用されます。
C++は依然として多くの分野で圧倒的な存在感を誇る一方、Rustは安全性とモダンな開発体験を武器に新しい領域で急速に存在感を高めています。プロジェクトの要件に応じて、C++の成熟したエコシステムとRustの安全かつ効率的な開発体験を使い分けることが、今後さらに重要になっていくでしょう。
Rust vs C++の未来:共存か、置き換えか
ここまで、パフォーマンス、安全性、そして開発者のエクスペリエンスという観点から、RustとC++の5つの主要な違いを比較してきました。では、この2つの言語は将来的にどのように発展していくのでしょうか?
結論から言うと、RustがC++を完全に置き換えることは、当面の間はないでしょう。 しかし、RustがC++の支配的な地位に挑戦し、特定の領域でその地位を奪っていく可能性は十分にあります。両言語は、それぞれの強みを活かしながら共存していく未来が現実的です。

出典:TIOBE Index
C++がその地位を維持する理由
C++には、長年の歴史と巨大なエコシステムという揺るぎない強みがあります。
- 膨大な既存コードベース: 世界中の何百万行ものコードがC++で書かれており、これらの保守と拡張には今後もC++が使われ続けるでしょう。オペレーティングシステム、ゲームエンジン、金融システムなど、重要なインフラの多くがC++に依存しています。
- 確立されたツールとコミュニティ: 長年にわたって成熟したコンパイラ、デバッガー、そして膨大な数のベテラン開発者が存在します。

出典:TIOBE Index
Rustの今後の動向
一方で、Rustの強み、特にメモリ安全性と並行処理は、今日のソフトウェア開発における最も緊急な課題を解決します。
- 安全性と信頼性: クラウドインフラ、ブロックチェーン、ウェブブラウザのレンダリングエンジンなど、セキュリティが最重要視される分野では、コンパイル時にメモリ関連のエラーを防ぐRustの能力が大きな価値をもたらします。
- 現代の課題解決: マルチコアプロセッサが主流となった現代において、データ競合のリスクなく安全に並行処理を記述できるRustは、未来のシステム開発における新しいスタンダードとなり得ます。
共存する未来へ
Rustは「より安全なC++」として、新たなプロジェクトや、C++で記述された既存のシステムの特定のコンポーネントを書き換える際の主要な選択肢となるでしょう。C++は、引き続きゲーム開発やHPC(高性能計算)のような、最大限の制御とパフォーマンスが求められるニッチな分野でその地位を維持するでしょう。
要するに、RustはC++の直接の代替品ではなく、むしろ互いに補完し合う関係にあります。両方の言語を理解することは、将来のソフトウェアエンジニアリングにおいて、より幅広い選択肢を与えてくれるでしょう。
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まとめ
この記事を通じて、C++とRustの顕著な特徴と、5つの主要な違いについて探求しました。C++は、その長い歴史と巨大なエコシステムにより、依然として業界の「巨木」としての地位を確立しています。しかし、Rustもまた、パフォーマンスを犠牲にすることなく、メモリ安全性や並行処理といった根本的な問題を解決できる「新興の巨人」としてその価値を証明しました。
結論として、RustはC++の単なる代替品ではなく、むしろ互いを補完し合う完璧なパートナーです。C++は既存のプロジェクトや絶対的な制御が求められる分野で引き続き主要な選択肢となる一方で、Rustは安全性、信頼性、そしてモダンさが求められる新しいプロジェクトの新たなスタンダードとなるでしょう。
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