近年では、人工知能(AI)の急速な発展に伴い、AIを活用したシステム開発の動きがますます広がっています。AIによるプログラミング支援ツールや自動化機能を備えた業務システムなどその応用範囲は多岐にわたります。
Gartner社によると、2028年には75%の企業のソフトウェアエンジ ニアがAIによる開発支援ツールを活用すると言われています。
2025時点で、多くの企業が、開発効率の向上、保守コストの削減、データの有効活用といった目標を実現するために、AIをシステムに導入しました。
本記事では、2025年におけるシステム開発におけるAI活用の現状について、導入の背景、導入プロセス、実際の導入事例、そして注意すべきポイントを詳しく解説します。
なぜシステム開発にAIを活用する必要があるのか
AIを活用する以前、システム開発では一般的にSDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)モデル、特にウォーターフォールモデルが採用されていました。このモデルは柔軟性に欠け、かなり煩雑であるため、開発ライフサイクルが長引き、コストの増加を招いていました。
さらに、設計、ほとんどのコーディング、テストといった工程が手作業で行われており、エラーの発生リスクが高く、時間も多くかかっていました。保守・アップグレードのプロセスも複雑で、多くのリソースを必要とします。
特にこのモデルでは、リスクを事前に予測することが難しく、システムの最適化にも限界があるため、期待通りの運用効率が得られないという課題がありました。
AIをシステム開発に活用して以来、多くの変化がもたらされました。最も顕著な利点の一つは効率化向上であり、これにより開発の時間が大幅に短縮されました。
AI技術の活用により、多くの作業が自動化され、人為的ミスが減少し、品質が向上しました。それだけでなく、AIを導入することで、パーソナライズや顧客ニーズの理解が進み、ユーザー体験が大きく改善されます。
さらに、企業はAIによる具体的かつ信頼性の高いデータ分析を通じて、より正確な意思決定が可能になります。最後に、AIはコスト最適化にも大きな役割を果たし、企業がリソースを効率的に配分し、長期的な競争優位性を確保するのに貢献します。

AIを活用したシステム開発は、伝統的な方法と比べて、特にスピード、精度、そしてコスト最適化の面で優れたメリットをもたらしています。これこそが、企業がAIを導入する理由であり、市場におけるイノベーションと競争力の加速に貢献する要因となっています。
AIを活用したシステム開発の流れ
システム開発において一般的に用いられている2つのモデルは、ウォーターフォールとアジャイルです。ウォーターフォールモデルは順序立てられた直線的なプロセスを採用するのに対し、アジャイルモデルは反復的かつ柔軟なアプローチを取るという点で異なりますが、共通して以下の基本的な開発プロセスを経ます:
- 企画・要件定義
- 設計・実装
- テスト
- 保守・運用
各ステージにおいて、AIはそれぞれ重要な役割を果たしています。
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企画・要件定義
- アイデア創出
AIと対話することによって、アイデアを膨らませます
- 要求・ニーズ分析
AIにユーザーのペルソナを演じてもらい、要求やニーズを洗い出します
- システム要件作成
AIに機能・非機能要件の案を生成してもらい、対話を通じてブラッシュアップし、作成した要件の漏れがないかレビューしてもらいます
設計・実装
- ソースコード・SQL自動生成
AIに作成してほしいコードの概要を入力し、プログラムやSQL文を生成してもらいます。対話を通じてブラッシュアップします
- リファクタリング
既存のソースコードから機能をそのままに、デザインパターンに則ってコードを修正し、可読性の高いコードに修正します
- コード説明
AIに既存の複雑なコード内容を要約・説明してもらい、ドキュメント作成やリファクタリングに活かします
- コード変換
COBOLからJavaなど、あるプログラミング言語で記述されたコードを別の言語に変換します
- コードレビュー
AIにソースコードについて、可読性や機能性、パフォーマンス、セキュリティなどの観点からアドバイスをもらいます
- UIデザイン作成
AIにUIデザイン案を作成してもらい、対話を通じてブラッシュアップし、コードに変換してもらいます
テスト
- テストケース生成
プロンプトにより、システムの機能テストや総合テストのテストケースを作成します
- テストコード生成
プロンプトにソースコードを入力し、それに応じた単体テストコードを作成します
- バグ検出・修正
AIに作成したコードのデバッグ時のエラーメッセージを基に、修正案を出してもらいます
保守・運用
- インフラ・リソース管理
AIにインフラやリソースの管理、デプロイを支援してもらいます
- 脆弱性検知・修正
使用するライブラリの管理などを通じて、システムに脆弱性がある場合に検知し、修正案を出してもらいます
- 運用効率化
システムで発生したエラーメッセージなどを解読し、パッチ適用による修正案を出してもらいます
さらに、AIはプロジェクト全体を通じて貢献しています。
- 情報調査
各工程で必要な情報を、対話やWeb検索によって効率的に取得します
- ドキュメント作成支援
プロンプトによって、システム開発に用いる各種ドキュメントの雛形や下書きを作成し、対話を通じてブラッシュアップします
- PJ管理支援
PJ計画案・タスク案を作成し、タスク消化実績の要約によってPJの進捗を管理し、チケットの要約によるシステムの課題管理などをAIに支援してもらいます
システム開発におけるAI活用の各社動向
ITベンダ・SIer
AIの活用を最も精力的に進めているのは、ITベンダーやSIerで、システム開発の幅広い工程で模索されています。これらの企業は、システム開発のさまざまな過程においてAIを活用しています。実装工程のみならず、要件定義などの上流工程やモダナイゼーションにおける生成AI活用を模索しおています。
以下は、それを実践している企業の例です。
IBM
- IBM(アイビーエム)は、アメリカに本社を置くグローバルなテクノロジー企業であり、企業向けにソフトウェア、ハードウェア、コンサルティングサービス、そして人工知能ソリューションを提供しています。.
- 製品として「watsonx Code Assistant」を提供。コード生成 や、COBOLからJavaへの変換によるモダナイゼーション、 Ansible Playbookの生成によるインフラ管理自動化を実現します。

NTT Data
- NTTデータは、日本のNTTグループに属するIT企業であり、企業や政府機関向けに、システム開発、テクノロジーコンサルティング、デジタルソリューションの提供を専門としています。
- ソフトウェア開発の全工程で積極的に生成AIを活用する方針でうす。
- COBOLからJavaへの変換やデータベースの移行作業など、マイグ レーション作業でも生成AIによって効率化できると見込んでいます。

金融業界
AIの導入では金融業界が他業界をリードしており、AIを導 入している企業の世界平均22%に対して36%と高い割合であります。金融業界は膨大な数値データ(顧 客、取引、市場、等)を扱うため、データの傾向分析や異常 検知など、広範な領域でAIを活用する大きなメリットがあります。

日本では、みずほFGが、勘定系システム「MIDORI」への導入を通じて、システムの開発および運用においてAIを活用しています。この取り組みは、日本の大手ITベンダーである富士通との協業によって実現されました. 結果は:
- 既存の設計書とレビュー記録を生成AIのプロンプトに入力し、設 計書の記載漏れや誤りを自動検出することでシステムの品質 向上をめざした。
- 有識者のナレッジ活用などによりレビュー結果の 正確性や網羅性向上を確認した。
海外では、GitHub Copilotをエンジニア向けに積極的に取り入れ、システム開発を効率化する動きが見られる。例えば、Citi Bank では、以下のような取り組みが行われています。
- 2024年4月半ばまでに約4万人の全開発者にGitHub Copilotを提供予定と発表しました。
- 自社内のコードレポジトリを利用したRAGも実践し、自社基準を満たすコード生成にりようします。
- レガシーシステムのモダナ イゼーションに取り組みます。
その他企業
IT業界や金融業界の企業に加えて、通信、保険など他の業種の企業も、システム開発にAIを活用し始めています。中には、ソフトウェア開発にAIを取り入れ、コーディングにおける生産性の向上を発表している企業も複数存在します。
サイバーエージェント のAI導入事例
サイバーエージェントは、2023年4月から会社全体でGitHub Copilotの導入を開始しました。2024年4月時点まで、約1,000人の開発者が日常業務においてこのAIツールを活用しています。社内調査の結果によると、開発者の半数がGitHub Copilotの使用によって、コーディング時間を10〜20%短縮できたと回答しています。

コード自動生成へのAIの活用は、システム開発における明確な効果をもたらす一般的なトレンドとなっています。その中でも、GitHub Copilotは代表的なツールとして注目されており、プログラマーがより速く、より正確にコードを書くための支援機能が高く評価され、広く利用されています。
どのようなシステムにAIを活用すべきか?また、活用すべきでないか?
日本総合研究所(JRI)のレポート「生成AIを活用したシステム開発の現状と展望」によると、同レポートに登場するAIをシステム開発に活用している12社は、日本国内外の大手企業で構成されています。

このレポートから、AIの活用に適しているシステム、あるいはまだ適していないシステムの特徴を以下のように整理することができます。
- AIの活用に適している
- 大規模企業のシステム:大企業は、人材にかかる時間とコストの最適化というプレッシャーを常に抱えています。AIの導入は、この課題に効果的に対処するだけでなく、企業の信頼性をさらに高める手段にもなります。たとえば、前述のサイバーエージェントのように、1,000人以上のエンジニアを抱える大手企業がその例です。
- 大量データと高度な分析を要するシステム:AIは、膨大なデータを深く活用し、変化に応じて学習・適応する能力があります。そのため、実データに基づく意思決定や業務の最適化において、高い効果を発揮します
- AIの活用に適していない
- 安全防衛などの機密性が高い分野のシステム:AIは、サイバー攻撃や誤情報の拡散、不正行為といった目的で悪用されるリスクがあり、国家の信用や安全に深刻な影響を及ぼす可能性があります。このような分野では、AIの導入には極めて慎重な対応が求められます。
- 小規模でシンプル、または複雑なデータ分析を必要としないシステム:このようなシステムでは、AIを導入することによるコストやシステムの複雑化に対して、メリットが見合わない可能性があります。そのため、導入の必要性や効果を十分に見極める必要があります。
システム開発を「Web系」「オープン系」「汎用系」の3つに大別した場合、AIの活用は、規模の大きさや複雑性の高さといった理由から、特に「オープン系」および「汎用系」での検討・活用が進められる傾向にあります。
AIを活用したシステム開発の注意点
リスクと対策
システム開発において、どんなツールを導入するか、リスクは慎重に検討すべき要素です。特にAIをシステム開発に活用する場合、以下のような注意点があります。
- ハルシネーションで誤情報を扱うリスク: 生成AIの出力は必ずしも完全に正確な情報に基づくわけではなく、誤った情報を真実と誤認させる「ハルシネーション」が頻発する可能性があります。そのため、システム上のトラブルを未然に防ぐためにも、常時監視できる体制を整備することが求められます。 この上、RAGを活用するのは ハルシネーションを抑える仕組みの一つです。
- 機密情報流出のリスク: システム開発にAIを導入する際には、いくつかのセキュリティ上の課題が伴います。特に機密情報流出などが挙げられ、これにより企業の評判が大きく損なわれ、問題解決には多大なリソースが必要になります。さまざまな脅威から保護するために、開発者はAIシステムに対して定期的なセキュリティテストを実施し、安全なコーディングの原則を順守するなど、強力なセキュリティ対策を講じる必要があります。
- 著作権侵害のリスク: システム開発においてAIが出力したコードがOSSのライセンス違反に該 当した際、採用すると訴訟等に発展する可能性があります。同様に、 AIが生成したコードが特許技術に基づいた際、知 らずにそのまま実装すると特許侵害に繋がる恐れがあります。したがって、開発者はAIの成果物が第三者の権利を侵害する可能性があることを認識し、リスクを軽減するためにAI出力を手動で検証するとともに、ライセンス問題のないデータで学習されたモデルの利用を優先すべきです。
導入条件
まず必要なのは、システム開発に必要な環境を整えること。これには、AI関連のタスクを迅速に処理できる高性能なコンピュータと、プログラム構築の基盤となる堅牢なフレームワークの準備が含まれます。また、AIに関する知識を有する人材の配置も重要です。生成AIはユーザーフレンドリーになりつつありますが、システム開発に効果的に活用するには、専門的なスキルを持つエンジニアが必要です。さらに、Pythonなどの基本的なプログラミング言語を熟知していることが、開発を円滑かつ効率的に進めるうえで欠かせません。AI人材育成は、企業がシステム開発にAIを成功裏に活用するために重要です。
まとめ
現在、システム開発業界は著しい成長段階にあると言えます。企業がAIを成功裏に活用し、ユーザーに価値を提供できるかどうかが、競争力や市場での存在感を大きく左右します。企業はAIのメリットとデメリットを正しく評価し、適切な形で活用する必要があります。AIの発展動向を綿密に追跡し、迅速に適応することは、エンジニアが果たすべき重要な役割です。
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