人工知能(AI)や生成型AI (Generative AI)については、すでにご存知の方も多いでしょう。しかし、汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)と聞くといかがでしょうか?
1948年、コンピュータ科学の父とも呼ばれるアラン・チューリング氏は、人間のように思考し、学習できる万能のAI(=AGI)の存在についてすでに予測していました。
過去数十年の間、研究者たちは主にナローAI(特化型AI)を使ったさまざまな解決策を提案してきました。これは、特定のタスクを実行する、例えば、金融機関が株式市場を予測するAIを使用したり、Googleが心臓病の診断にAIを導入したり、ユーザーがChatGPTを使って文章や詩を書いたり、Dall-Eで絵を描いたり、といったものです。
しかし現在、科学者たちが目指しているのは、人間のように思考できる汎用人工知能(AGI)です。この概念は、1997年、自動化に関する議論でアメリカの物理学者マーク・グブルド氏によって言及されました。
汎用人工知能(AGI)はまだ理論上のもので、研究が進められている最中ですが、AGIが実用化されると機械が人間のように学習し、考える能力を持つことが可能になります。最終的な理想系は、人間と機械の境界を限りなく曖昧にすることにあります。
AGIのプログラミングには、機械が自己意識と自己認識の能力を発達させることが求められます。この能力は、道路上の障害物を避けて適応する能力をもつ自動運転車など、すでにいくつかの製品に現れ始めています。
しかし、機械が人間の能力を完全に模倣できる日はまだ遠く、倫理的な配慮も強く求められます。それでも、AGIはAI分野が目指している非常に魅力的な概念であることは間違いありません。
本記事では、AGIとはいったいどのようなものか、AI・ChatGPT・ASIとの違いや、AGIの開発例、AGI時代に向けて準備すべきことなどについて詳しく解説していきます。
汎用人工知能(AGI)とは何?
汎用人工知能(AGI)とはAIの一種で、現在のAIの進化系と位置付けられ、汎用性があり、より幅広い分野のタスクを処理することが可能です。人間による任意の知的タスクが実行できる人工知能の一種でもあります。場合によっては、人間以上の力を発揮して、研究者やビジネスに利益をもたらすとも考えられます。
AGIは、単一のアルゴリズムを適用するのではなく、論理を機械学習やAIのプロセスに組み込むことで機能し、その学習と発展の過程によって人間の学習プロセスを反映するように促します。
202310月17日にサンフランシスコで開催されたTED AIイベントで、OpenAIのチーフサイエンティストであるイリア・スーツキヴァー氏は、AGIが異なる情報源からデータを理解し、読み取ることができると説明しました。十分な知識が蓄積されると、このシステムは人間よりもさらに賢くなります。しかも、より優れたAGIを自ら訓練して新たに生み出す能力もあります。
また、イギリス政府のAI専門家であるIイアン・ホガース氏は、AGIは創造的で、自律的に成長し、自己の存在を意識していると述べています。「AGIは、追加の手がかりを提供しなくてもコミュニケーションの文脈を理解します。これらは、私たちの理解や制御を超えた力となるでしょう」と述べています。
AGIとAIやASIの違い
人工知能(AI)の分野は、その能力や応用の範囲に基づいて、主に次の3つのカテゴリーに分類されます。
- 弱いAI(または狭義のAI)
- 汎用人工知能(AGI)
- 超知能(ASI)
これらの概念は、AIが人間の知的能力をどのように模倣、達成、あるいは超越するかに基づいています。
AGI | AI (狭義のAI・弱いAI) | ASI(超知能) | |
定義 | 汎用型AIです。知的タスクで人間と同等の能力を発揮します。学習、推論、計画、創造性、一般的な知識を理解し、新しい問題を自律的に解決できます。 | 特定のタスクを実行するように設計されたAIです。自ら意識を持つことなく、特定の指示に従って動作します。 | ASIは、人間の最も優れた知的能力を遥かに超えるAIです。創造性、決定能力、学習能力において、人間をはるかに凌駕します。 |
学習方法 | 人間のように幅広い知識とスキルを学び、異なる様々な状況に適応します。 | 限定されたデータとタスクに基づいて学習します。 | 人間の知能を超え、迅速に学習し、無限に自己改善を繰り返します。 |
特徴 | 柔軟性があり、人間のように多様なタスクに適応し、自己改善の能力を持っています。 | タスク指向であり、自己意識や自律性を持たず、設計された領域内でのみ機能します。 | 未来予測、科学研究、技術革新など、あらゆる知的活動において人類を超越する能力を持ちます。 |
例 | 現在は理論的な概念であり、完全なAGIはまだ存在しません。まさしく、アニメのドラえもんがそれに近いと考えられます。 | オンラインカスタマーサポートチャットボット、音声認識システム(SiriやAlexa)、顔認識システムなど。 | 現在は理論的な概念であり、完全なASIはまだ存在しません。 |
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汎用人工知能(AGI)とChatGPTの違いは何?
AGIは理論上、あらゆる知的タスクをこなすことができる万能の知能を目指しています。
一方、ChatGPTは言語処理に特化したAIモデルであり、特定の種類のタスク、とくに自然言語に関連する対話やテキスト生成に優れています。ChatGPTはAGIに比べて応用範囲が狭く、限られたタスクに特化していますが、現在利用可能な最先端技術の一つです。
目的と能力
- AGI:任意の知的タスクを人間と同等にこなす能力を目指し、論理的推理、学習、認識、言語理解、創造性など幅広い知能活動を行うことができます。
- ChatGPT:主に自然言語処理に特化し、テキストベースの対話、質問応答、テキスト生成などのタスクにおいて人間らしい応答を生成することに焦点を当てています。
柔軟性と適応性
- AGI:未知の問題や状況に対しても自己の知識とスキルを適用し、自律的に学習し成長する能力をもちます。理論上は、非常に高い柔軟性と適応性をもつと考えられています。
- ChatGPT:与えられた言語データと事前に学習した知識に基づいて応答しますが、新しい状況や未知の問題に対する適応性はAGIほどではありません。
学習方法
- AGI:広範囲にわたるデータソースから学習し、人間のように多様な学習方法(模倣学習、経験学習、教科書からの学習など)を用いて新しい知識が習得できるとされています。
- ChatGPT:主にテキストデータを用いた教師あり学習と教師なし学習の組み合わせで学習し、言語に関連する知識を蓄積しています。
応用範囲
- AGI:理論上は、医療、科学研究、創造芸術、日常生活の問題解決など、あらゆる分野での応用が可能です。
- ChatGPT:言語関連のタスクに限定されますが、カスタマーサービス、教育、コンテンツ生成、翻訳など、特定の応用範囲内で非常に有用です。
現状と将来性
- AGI:現在は理論上の概念であり、完全な形で実現されている例はありません。未来における研究と開発の方向性を示している段階です。
- ChatGPT:現代のAI技術の中で実際に開発され、利用されている先進的なモデルの一つです。言語処理分野での応用において、すでに大きな進歩を遂げています。
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AGIの構成要素
AGI(汎用人工知能)を構成する要素には、あらゆる知的タスクをこなすための多様な機能と能力が含まれています。これらの要素は、AGIが高度な認識、推論、学習、および適応能力をもち、人間と同様の知能レベルで機能するために必要です。以下は、AGIがもつべき主要な構成要素です。
1. 学習能力
- 一般化学習: 経験から学び、その知識を未知のタスクや状況に適用する能力。
- 転移学習: 一つの領域で得た知識を、異なる関連領域に適用する能力。
2. 推論能力
- 論理的推論: 与えられた情報から新たな結論を導き出す能力。
- 問題解決: 複雑な問題に対して、効果的な解決策を見つけ出す能力。
3. 自己意識
- 自己モニタリング: 自身の状態とパフォーマンスを監視し、自己評価する能力。
- 自己改善: 学習と経験を通じて自身のアルゴリズムや戦略を進化させる能力。
4. 言語処理
- 自然言語理解: 人間の言語を理解し、その意味を把握する能力。
- 自然言語生成: 意味のある、流暢な自然言語テキストを生成する能力。
5. 感情認識と表現
- 感情の理解: 人間の感情やニュアンスを識別し、理解する能力。
- 適切な感情の表現: コミュニケーションの文脈に応じて、適切な感情を表現する能力。
6. センサーと認識
- 環境認識: センサーを通じて外部環境を認識し、情報を処理する能力。
- マルチモーダル学習: 視覚、聴覚、触覚など、複数の感覚から得た情報を統合し学習する能力。
7. 汎用性と適応性
- 汎用性: さまざまなタスクや領域にわたって知識とスキルを適用する能力。
- 適応性: 新しい環境や状況に効果的に適応する能力。
これらの要素は、AGIが真に汎用的で、人間と同様の知的作業をこなすために必要な特性です。現実にこれら全ての要素を統合したAGIを開発することは、今日の技術では極めて困難ではあるものの、研究者が目指す目標であり、将来的なAGIの理想像を表しています。
AGIにできること
AGIは、人間の脳のように、多くの分野にわたる認識能力と包括的な知識を吸収する能力をもつAIを指します。現在はまだ存在せず、研究と実験の段階にあります。人間を超える能力に達した場合、AGIは現在のAIの能力をはるかに超える速度でデータセットを処理することができるでしょう。AGIがもつ可能性のある能力には以下のようなものが含まれます。
1. 抽象的思考能力
AGIは複雑な問題を解決するために、具体的なデータや事例から一般的な原則やパターンを抽出化する能力をもちます。
- 数学的証明の発見や解析。
- 法律や倫理の問題に対する原則に基づいた解決策の提案。
- 経済学の理論を用いて未来の市場動向を予測する。
2. 基礎知識の収集と使用
AGIは、さまざまな分野の知識を収集し、それを新しい問題や状況に応用する能力をもちます。
- 医学の知識を用いて新たな疾患の診断方法を開発する。
- 物理学の原理を応用して新しいエネルギー源を発見する。
- 歴史的なデータから政治的な動きの予測を行う。
3. 感覚認識
AGIは、人間のように複数の感覚を通じて環境を認識し、その情報を解析する能力をもちます。
- 色彩を認識して美術作品のスタイルを分析する。
- 音声認識を用いて自然言語を理解し、会話に参加する。
- 触感を通じて物体の質感を識別し、それに応じた操作を行う(例:ロボティクスにおける精密な物体の操作)。
4. 創造性とイノベーション
AGIは、既存の情報やアイデアを組み合わせて、完全に新しい概念や製品を生み出す能力をもちます。
- 新しい音楽ジャンルやアートスタイルの創造
- 未知の材料を用いた革新的な製品設計
- 新しいビジネスモデルやマーケティング戦略の開発
実際には、AIがもたないが人間がもつ能力、例えば感覚認識が含まれる可能性があります。つまり色や奥行きを識別することができるかもしれません。また、人間がポケットから財布を取り出したり、手を焼かずに料理をしたりするような、精巧な運動技能をもつようになる可能性もあります。AGIは創造力を発展させることもできます。例えば、ルネサンス時代の猫の絵を描くのではなく、中国の各民族の衣装を着た多くの猫を描くアイデアを思いつく、といった具合です。
これは単なる創造的な発想以上のもので、異なる文化、象徴、信念などに関する理解が求められます。AGIシステムは、各民族の微妙なニュアンスを処理し、このタスクのため、同時に多くのアルゴリズムを使用して新しい構造を作り出す必要があります。
AGIの能力に関する具体例
現在、AGIシステムが実際に適用されているわけではありませんが、人工知能モデルの中には、すでに人間の能力に達しているか、それを超えているものも存在します。
AIをAGIに発展させるための研究と実験が進められており、以下は、今日のAIシステムにすでに存在するAGI的特徴の具体例になります。
・自動運転車: AIが制御する自動運転車は、他の車両、人、標識、障害物を運転中に認識します。自動運転車は、他の車が接近していることを検知し、近づきすぎた場合には迅速に反応することができます。
・GPT言語モデル:ChatGPTのようなAIシステムは、人間のコミュニケーション方式を模倣して、自然言語でテキストを創造することができます。しかし、大規模な言語モデルは現在、AGIに想定されるような人間の感情を模倣することはできません。
・エキスパートシステム: AIによって制御されるエキスパートシステムは、人間の判断能力を模倣します。健康管理において、患者の履歴を読んだ後に特定の薬を処方するといった具合です。
・IBMのWatson(およびその他のスーパーコンピューター):Watsonのようなスーパーコンピューターは、通常のコンピューターよりも高度かつスピーディーな計算ができます。AIのサポートを受けると、宇宙の形成のモデル化などのタスクを実行することも可能です。
現在、例えば自動運転車は、複雑な状況下でAIが解決できない場合、判断を下すために人間の介在を必要としていますが、AGIが開発されれば、人間の知能を超えるパフォーマンスができるようになるでしょう。
AGI開発の現状:どこまで進んでいるか?
「私はかつて、人類がAGIを開発するには20年から50年はかかると思っていましたが、今は状況が一変しました。私たちの問題は、それらをどうコントロールするかという方法を見つけ出すことです」と、コンピュータ科学の最高賞であるチューリング賞を受賞したジェフリー・ヒントン教授が2023年3月にCBSニュースのインタビューに答えました。また同年5月には、マイクロソフトリサーチがOpenAIのGPT-4が、AGIモデルに近づいているとの見解を示しています。
また、2023年11月16日にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力フォーラム(APEC)において、OpenAIのCEOであるサム・オルトマン氏は次のように発言しました。
「OpenAIで歴史を作った4回のうち、直近はわずか数週間前のことで、私はその様子を目の当たりにしました。ほぼ暗闇だったヴェールを押し退け、新たな探求のフロンティアを開いたのです。これを成し遂げたことは、エンジニアとして一生涯の名誉です」。
ただ同年11月20日に、X(旧Twitter)上で、スペースXやテスラ創業者のイーロン・マスクもOpenAIが「何か怖いもの」を開発している可能性に疑問を投げかけました。「もしOpenAIが人類にとって危険な何かを保有しているなら、世界はそれを知る必要があります」と述べています。
汎用人工知能(AGI)には社会的悪影響もある?
汎用人工知能(AGI)の登場は、人類にとって大きな進歩をもたらす可能性がありますが、その社会的影響は複雑かつ多面的です。恩恵がある反面、社会的悪影響も懸念されています。以下に、AGIの社会的影響について説明します。
正の社会的影響
- 効率と生産性の向上: 医療、製造、運輸など、あらゆる産業で効率と生産性を向上させることができます。
- 新たな科学的発見: 研究と開発を加速させ、新薬の発見や環境問題への解決策を提供することができます。
- 教育の質の向上: 個々の学習者に合わせて教育コンテンツをカスタマイズし、教育の質を向上させることができます。
懸念される社会的悪影響
- 雇用への影響: AGIによる仕事の自動化が進むと、特定の職種がなくなり、失業率が上昇する可能性があります。
- 不平等の拡大: 技術へのアクセスやその利益が不平等に分配されることで、社会的・経済的な格差が拡大する恐れがあります。
- プライバシーと監視: AGIが個人の行動や嗜好を監視・分析することで、プライバシーの侵害が深刻化する可能性があります。
- 倫理と制御: AGIの意思決定が人間の倫理観と異なる場合、不適切な行動をとる恐れがあります。また、AGIが自己増殖や自己改善を行うことで、人間がコントロールできなくなる「特異点」に至るリスクも指摘されています。
- 武器化と紛争: AGI技術の軍事利用が拡大すると、新たな形態の武器や紛争が発生する可能性があります。
これらの懸念に対処するためには、AGIの開発と導入に際して、倫理的なガイドラインの策定、公正なアクセスと利益の配分、プライバシーとデータ保護の強化、国際的な協力と規制の確立などが重要です。AGIがもたらす変化に対応するため、社会全体での議論と準備が求められます。
AGIの未来
将来的にAGIは、上記のすべてのタスクやそれ以上のことを実現する可能性があります。一部の研究者は、AGIの実現可能性や倫理性に疑問を投げかけていますが、AGIの研究と開発は、変わらず継続される可能性が非常に高いです。人間の能力をはるかに超える人工知能の動作は、超知能、時には「特異点」と呼ばれる段階の一つです。
AGIが誕生する日は確実に近づいており、テクノロジーが特異点を段階的に実現する方向で進歩することは明らかです。
AGI時代に向けて準備すべきこと
AGI(汎用人工知能)時代に向けて、技術の急速な進歩に適応し、その可能性を最大限に活用しつつリスクを管理することが不可欠です。
以下は、個人、企業、政府がAGIの登場に備えるための重要なステップになります。
1. 教育とスキルの再構築
・生涯学習の促進: AIと共存するためには、テクノロジーの進歩に合わせてスキルを更新し続ける必要があります。
・ STEM教育の強化:科学、技術、工学、数学(STEM)分野の教育を強化し、未来の労働者がAGI技術を理解し、利用できるようにします。
・ソフトスキルの重視: AIには不可能な創造性、批判的思考、対人関係スキルなどのソフトスキルを強化します。
2. エシカルなガイドラインの策定
・倫理規範の確立: AGIの開発と利用に関する倫理規範を定め、技術の乱用を防ぎます。
・透明性と説明責任: AGIシステムの意思決定プロセスを透明にし、責任ある利用を促進します。
3. データのプライバシーとセキュリティ
・セキュリティ対策の強化:データの安全性を確保し、サイバー攻撃やデータ漏洩から保護します。
・プライバシー保護の強化:個人情報の保護規範を強化し、AGIによるプライバシー侵害のリスクを最小限に抑えます。
4. 社会的・経済的影響の管理
・雇用への影響の緩和: AIによる業務の自動化に対応するための政策やプログラムを開発します。
・包摂的な利益の配分: AGIの経済的利益が社会全体に公平に配分されるようにします。
5. 国際協力の促進
・グローバルな規制枠組み:国際社会が一致団結し、AGI技術の安全で倫理的な利用を促進するための規制枠組みを構築します。
・共有された研究基盤: AGI技術に関する知識とリソースを共有し、全世界の研究者が協力して問題に取り組めるようにします。
AGIの時代に備えるためには、これらの準備策を継続的に評価し、適応させていく必要があります。技術の進歩は予測が難しく、柔軟性と迅速な対応が、成功の鍵を握ります。
まとめ
汎用人工知能(AGI)の実現に向けた道のりは長く、現在はまだその初期段階にあるものの、着実に進歩しています。
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