2026年に入り、AI活用は「生成する段階」から「自律的に行動する段階」へと大きく進化しています。その中心にあるのが Agentic AI(エージェント型AI) です。従来の生成AIがテキストや画像を出力するだけだったのに対し、Agentic AIは「目標を理解し、計画を立て、自ら行動し、結果を振り返る」ことができる、まったく新しいAIアーキテクチャです。
この進化は、業務自動化の高度化、人手不足の深刻化、企業データの複雑化といった日本企業が抱える課題と非常に相性が良く、すでに国内外で導入が加速しつつあります。とくに2026年以降は、推論コストの低下やエージェントフレームワークの成熟により、Agentic AIを現場レベルで実運用できる環境が整い始めています。
本記事では、Agentic AIとは何か、もたらすインパクト、日本企業が導入する際のポイント、重要なツールについてわかりやすく解説します。
Agentic AIとは?

Agentic AI(エージェントAI、またはエージェント型AI)とは、与えられた目標に基づき、自律的に目標を設定し、計画を立案・実行し、その結果を自己評価しながら、最終的なタスクを達成できる能力を持つ人工知能システムのことです。
従来のGenerative AI(生成AI)が、ユーザーの単一のプロンプト(指示)に対して一度きりの「応答」や「コンテンツ生成」を行うのに対し、Agentic AIは複数のステップとツールを駆使して、複雑で長期的なタスクを完遂しようとします。
◆ Agentic AIの4大構成要素
Agentic AIシステムは、主に以下の4つの基本的な機能モジュールで構成されており、これらが連携することで「自律性」を実現しています。
| 要素 | 役割 | 機能の具体例 |
| Plan(計画) | 複雑な目標を小さなサブタスクに分解し、実行順序を決定する。 | 「ウェブサイトを構築する」という目標を、「市場調査」「デザイン選定」「コード生成」「デバッグ」などに分解する。 |
| Tool Use(ツール利用) | 外部のデータベース、API、ソフトウェア(ブラウザ、コード実行環境など)を呼び出し、タスクを実行する。 | Google検索APIを使って情報を収集する。Pythonコードを実行してデータ処理を行う。Gmailを送信する。 |
| Memory(記憶) | 過去の実行履歴、フィードバック、および長期的な知識を保存・活用し、学習を重ねる。 | 以前失敗したステップを記憶し、次回の計画で避ける。ユーザーの好みやスタイルを長期的に記憶する。 |
| Reflection(自己評価・反省) | 実行結果を評価し、目標達成に近づいているかを判断する。必要に応じて計画を修正・改善する。 | 「生成したコードがエラーを返した」という結果を受け、計画のステップに戻り、コードを修正する。 |
Agentic AIとGenerative AIの違い
Agentic AIとGenerative AIは、どちらも大規模言語モデル(LLM)を基盤としていることが多いですが、その機能、目的、そしてタスクの実行方法において決定的な違いがあります。
Generative AIが「生成(Output)」に特化しているのに対し、Agentic AIは「実行(Execution)と自律性」に焦点を当てています。
この違いを理解することが、Agentic AIの真価を把握する鍵となります。

◆「実行能力(Execution)」の有無
Generative AIは、文章・画像・コードなどの生成に特化しており、外部システムの操作やツール実行などの能動的な行動(アクション)は自ら行いません。
一方、Agentic AIは、目標達成のためにデータ取得 → 判断 → ツール利用 → 実行 といった一連のアクションを自律的に実行できます。
例:顧客データの取得、メール文面の生成、送信作業まで自動で完了させる。
◆「反復と自己評価(Reflection)」による学習
Generative AIは基本的に単発応答(ワンショット)であり、自身の出力を評価して改善する機能は持ちません。
対してAgentic AIは、計画 → 実行 → 反省 → 再計画(ループ)という「Reflection」プロセスを備えており、タスク中に自分の行動を評価し、必要に応じてアプローチを修正します。
これにより、Agentic AIはタスク内で試行錯誤しながら、より精度の高い結果を導き出すことができます。
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なぜ2026年にAgentic AIが爆発的に普及しているのか?
2026年までに、企業の80%以上がGenAI APIを活用(Gartner)する普及期に突入しました。2026年は、AIが「生成」から「行動」へ進化します。つまり Agentic AI(AIエージェント) の本格導入です。
Agentic AIがこの年に爆発的に普及する背景には、以下の三つの波が同時に押し寄せていることが挙げられます。
技術の成熟:LLMの推論能力が「実行」に耐えるレベルへ進化
Agentic AIの基盤となるLLM(大規模言語モデル)の性能が、GPT-4oやGemini 2.5 Pro、Claude 3.5 Sonnetといった最新モデル群によって、計画立案や自己評価(Reflection)といった高度なタスクをエラーなくこなせるレベルに到達しました。
特に、LLMが外部ツール(データベース、API、ウェブブラウザ)を正確かつ自律的に呼び出す能力(Tool Use)が向上したことで、AIエージェントが「思考する」だけでなく「行動し、タスクを完遂する」ことが技術的に可能になりました。
ビジネスの要求:「AI疲れ」の解消と真の自動化ニーズ
2025年のGenAI導入期において、多くの企業は「プロンプト入力と結果の調整」という新しい手作業が増え、真の効率化を実感しきれていませんでした。
2026年には、企業は単なるコンテンツ生成ではなく、「エンドツーエンドの業務プロセス自動化」によるコスト削減と生産性の劇的な向上を求め始めました。Agentic AIは、この「ユーザーの関与を最小限に抑え、複雑な業務を自律的に完遂する」という市場の強い要求に応える唯一のソリューションであり、SaaSベンダーもエージェント機能の搭載を急速に進めています。
コストの最適化:「推論コスト」の大幅な低下
2026年に入り、主要なLLMプロバイダーは、マルチステップの推論に必要な処理速度の向上と、それに伴うAPI利用コストの大幅な低下を実現しました。
Agentic AIは、単一のプロンプト処理ではなく、計画、実行、反省という複数のステップで処理を行うため、推論コストが普及の大きな障壁でした。このコスト構造の改善により、エージェントを多数稼働させても経済的に見合うようになり、企業が大規模な導入に踏み切りやすくなったことが、普及を後押ししています。
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Agentic AIの主要ツール
OpenAI Assistants / GPTs

特徴:
高度なツール呼び出し、Code Interpreter、ファイル操作、メモリ管理、長期スレッドに対応。
最適な用途:
データ分析、業務アシスタント、軽量業務自動化。
注意点:
Web検索・ツール連携を多用すると推論コストが上昇。
Anthropic Claude Workflows / Projects

特徴:
長文処理が強く、Workflowsでマルチステップの自律タスクを構築可能。
最適な用途:
リサーチ、ドキュメント管理、企業向けの安全重視タスク。
注意点:
ツール連携はOpenAIより控えめで設計が必要。
Google Vertex AI Agents

特徴:
BigQuery、GCS、Google WorkspaceなどGoogle Cloud全体と深く統合。
最適な用途:
既にGoogle Cloudを利用するエンタープライズ。
注意点:
初期構築が複雑、学習コストが高め。
Microsoft Copilot Studio

特徴:
M365、Power Automate、Dynamics 365と連携し、業務アクションを自動実行。
最適な用途:
Outlook、Teams、SharePointを使う企業。
注意点:
権限設計が重要。過剰権限だと自動アクションが過度に働く可能性。
LangChain Agents

特徴:
Python/JSでカスタムエージェントを構築可能。ツール使用・メモリ・計画機能が強力。
最適な用途:
独自AIエージェントシステムを内製したい開発チーム。
注意点:
抽象化が複雑で、トレースでのデバッグが必須。
LlamaIndex Agents

特徴:
検索特化のエージェント。データ接続、ルーティング、Structured Outputが強み。
最適な用途:
RAG+アクションで動く社内エージェント。
注意点:
インデックス設計を誤ると性能が大幅に低下。
AutoGen (Microsoft Research)

特徴:
複数エージェントが対話しながらタスク分割・交渉・レビュー。
最適な用途:
複雑なエンジニアリングフロー(データ+コード+QA)。
注意点:
エージェント数が多いと制御不能になるため、Supervisorが必要。
CrewAI

特徴: 役割 (Role)、目標 (Goal)、ツール (Tools) を定義し、複数エージェントが役割分担してタスクを進行する設計。
最適な用途: コンテンツ制作、調査パイプライン、マーケットリサーチ、レポート生成など、複数ステップを伴うワークフローの自動化。
注意点: 各エージェントの役割・成功条件を明確に設定しないと、出力が曖昧になりやすい。
Zapier AI Actions / Central

特徴:
7,000+アプリの自動化を自然言語で制御できるエージェント。
最適な用途:
CRM、メール、スプレッドシート、チャットの自動化。
注意点:
実運用前のテストとガードレール設計は必須。
Perplexity Enterprise Pro(Agentic Research)

特徴:
マルチホップ検索、引用付き調査、長文要約を自動化。
最適な用途:
市場調査・競合分析・ナレッジ作成。
注意点:
情報源の精度管理が必要(範囲指定・日付指定推奨)。
日本企業がAgentic AIを導入する際のポイント
Agentic AIは、業務効率化・意思決定支援・自動化のレベルを大きく引き上げる技術です。しかし、日本企業が導入する際には、組織文化、ガバナンス、データ管理、人材育成といった特有の課題を考慮する必要があります。ここでは、成功導入のための重要ポイントを3つの観点から解説します。
組織文化とリスクマネジメントの最適化
日本企業は意思決定が慎重で、承認プロセスも複数階層に及ぶため、Agentic AI導入には特に丁寧なステップ設計が求められます。
1.スモールスタートでの段階的導入
- Agentic AIは自ら判断し行動するため、誤送信・誤操作などのリスクが発生します。
→ FAQ検索・データ整理・集計など、影響が限定的な業務から開始するのが安全です。 - 導入時は必ず停止ボタン(Kill Switch)とロールバック機能を設け、異常時の即時制御を可能にします。
2. 責任範囲の明確化と業務プロセス再設計
- AIエージェントが行動した結果に対し、どの部署が最終責任を持つかを事前に定義する必要があります。
- 「AI任せ」にならないよう、重要タスクにはHuman-in-the-Loopを配置し、チェック体制を構築します。
データガバナンスとセキュリティ強化
Agentic AIは社内データにアクセスしながら行動するため、従来のGenerative AIより高い精度のガバナンスが必要です。
1.日本語データに最適化したRAG構築
- 日本企業ではPDF、手書き資料、古いDBなどの非構造化データが多く、そのままではAIが正確に活用できません。
→ LlamaIndexを活用し、RAG(検索拡張生成)で安全にデータへアクセスできる環境を整えます。 - 日本語特有の曖昧表現・敬語の解釈を強化し、現場で使えるAIエージェントを実現します。
2. 最小権限アクセス(Least Privilege)の徹底
- データベース・API・SaaS連携では、必要最低限の権限だけをAIに付与します。
- Microsoft Copilot Studio や Zapier Central導入時は、誤操作・誤送信を防止するため、厳格なガードレール(操作制限、アクセス制限)設定が必須です。
スキルシフトと人材育成の重要性
Agentic AI時代には、利用者と開発者の双方が新しいスキルセットを求められます。
1.Agent Supervisor(エージェント監督者)の育成
- 従来の「プロンプトを作る人材」から、
「目標設定 → 計画評価 → 行動監視 → 修正」ができる「エージェント監督者」へのスキルシフトが必要です。 - 業務担当者が「計画・実行・反省」のサイクルを理解することで、エージェントの正確性と安全性が大幅に向上します。
2. AIネイティブ開発者の内製化
- LangChain、AutoGenなどのフレームワークを活用し、
自社固有のシステム連携やルールを組み込んだエージェント開発ができる人材を育てることが重要です。 - 外部ベンダー依存を減らし、中長期的な競争優位性とコスト最適化に繋がります。
まとめ
2026年以降、Agentic AIの普及が加速している理由としては、基盤モデルの高度化、企業の業務自動化ニーズの拡大、そして推論コストの大幅な低下が重なり、導入環境が一気に整ったことが挙げられます。
一方で、日本企業が本格的に活用していくためには、スモールスタートによる段階的な導入、役割分担とガバナンスを明確にした運用設計、日本語データに最適化されたRAG基盤の構築、権限管理とガードレールの徹底、さらにはエージェント時代に対応した人材育成など、日本独自の事業環境に沿った取り組みが求められます。
これらの点を押さえてAgentic AIを正しく実装できれば、業務効率の飛躍的向上、意思決定の高度化、コスト最適化、ナレッジ標準化といった企業価値の最大化が期待できます。2026年以降の競争環境において、Agentic AIは企業の成長速度を決める中核技術になるでしょう。
Agentic AIの導入は、単なる技術選定にとどまらず、業務設計、ガバナンス構築、既存システムとの連携、そして継続的な改善まで一貫したアプローチが求められます。特に日本企業の場合、品質基準や意思決定プロセスを踏まえた慎重な実装が必要となり、実務に根ざした開発力が成功の鍵となります。
Relipaは、AI・Web3・Blockchain・業務システム開発を中心に、9年以上にわたり日本市場で多数のプロジェクトを支援してきた実績を持っています。要件定義から設計・開発・運用までを正確に理解できる日本語対応のBrSE/PMチームと、RAG構築やマルチエージェント設計に強い技術陣を備えており、「動くAIソリューション」を確実に提供できることが大きな強みです。
業務特化型エージェントの構築、社内データに適したRAG環境の整備、既存のERP・CRMとの接続、AI PoCのスモールスタートなど、どの段階からでも柔軟に支援が可能です。もしAgentic AIを本格的に活用したい、あるいはどこから始めればよいか悩んでいる場合は、ぜひRelipaにご相談ください。豊富な知見と確かな技術力で、貴社のAI活用を着実に前進させます。
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