ビジネスモデルや解決すべき課題の多様化により、新規事業やイノベーションへの社会的ニーズが、かつてないほどに高まっています。そのために有効なのが、「ビジネスモデルキャンバス( BMC )」です。
「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」とは、新規事業のみならず既存事業を根底から見直して、確実に競争力を向上させるために必要な9つの要素をマトリックス上に表記するフレームワークのことです。曖昧でおぼろげな構想や思考を具体的に可視化して担当者やパートナー企業とともに共有し、足並みをそろえてアクションを起こすために重要な役割を果たします。
そこで今回は、「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」の意味や必要性、作成手順について詳しく解説します。
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは、新規事業に欠かせない、
- 顧客セグメント(Customer Segment)
- 提供価値(Value Propositions)
- 販路(Channels)
- 顧客との関係性(Customer Relationships)
- 収益の流れ(Revenue Streams)
- キーリソース(Key Resources)
- キーアクティビティ(Key Activities)
- キーパートナー(Key partner)
- コスト構造(Cost Structure)
以上9つの要素を、上記のようにマトリックス上に表した戦略的フレームワークのことです。
各項目が何を意味するかは後に詳しく解説しますが、表の右半分にあたる上記の緑字の項目は「顧客との関係性や収入の流れ」を意味し、左半分の青字は「ビジネス運営のためのオペレーション」となります。赤字の「提供価値( Value Propositions)」については、両方にまたがります。
新規事業の主軸は、一言で言うと「どんなターゲットに何を提供するか」につきます。これが決まらなければ、何も始まりません。ただ、あらゆるビジネスモデルが成熟化しているなかにあって、持続可能性と将来性に富んだ新規事業は、いつでもインスタントに創出できるほど甘いものではありません。
各担当者があらゆる可能性を探りながら頭の中で試行錯誤を繰り返す、泥臭い作業の連続と言ってよいでしょう。ただ、具体的なキーワードやコンセプト、目安となる数値もないまま、ひたすら思考し続けても一向に事業計画は定まりません。そこで、新サービスの開発や課題解決の糸口を見つけるために、上記の9項目からなる枠を一つずつ埋めていくわけです。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)の具体的な作成手順は後述しますが、この9項目は決して独立した関係ではなく、隣り合わせの近い要素から順に派生しつつ互いに影響し合う相関関係にあります。各項目同士をリンクさせながら全体像を形作って、最終的に事業計画書に落とし込んでいくのです。
例えば、社内で威信をかけた新規事業のプレゼンを行うとしましょう。その際に必要なポイントや、CEOや経営陣から指摘されるであろう最低限のファクターは、 「何を(What)」 「いつ(When)」 「だれが(Who)」 「どこで(Where)」 「なぜ(Why)」 「どのように(How)」行うかということ。つまり、いわゆる「5W1H」です。
これは重要なフレームワークの一種ですが、新規事業を成功させようと思えば、これではまだ不十分です。さらに 「だれに(Whom)」 「どれくらい(How many)」 「いくらで(How much)」 という3つの要素を加えた「6W3H」という枠で事業展望をより戦略的に追求していく必要があります。ビジネスモデルキャンバス(BMC)の9項目を埋める作業は、自ずとこの「6W3H」に対する回答となるといってよいでしょう。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)の9項目について極限まで突き詰めて行けば、社内でのプレゼンのみならず、社外の協力者への新事業提案の際にも、納得のいく回答が得られる可能性が高まります。
BMC (ビジネスモデルキャンバス)が必要な理由
ビジネスモデルキャンバスがなぜ必要なのか、その理由についてさらに掘り下げましょう。
スピーディーな新規事業立ち上げのため
新規事業の創出には、一にも二にもスピードが求められます。開発リードタイムが長くなればなるほど、競合に先を越されるリスクが高まるからです。ところが従来の事業計画書の類いは、ときにそのボリュームが数十ページにも及び、あまりに膨大過ぎて作成はもちろんのこと、目を通すのにも無駄な時間を浪費するケースが少なくありませんでした。
そこでビジネスモデルキャンバス(BMC)を活用すれば、新規事業が軌道に乗るまでに必要な全要素が短期間のうちに余すところなく顕在化するため、手間やコストが大幅に削減できます。
既存事業のブラッシュアップのため
ビジネスモデルキャンバス(BMC)が役立つのは、何も新規事業に限ったことではありません。既存事業を見直してブラッシュアップする際にも活用できます。
極めてめまぐるしく変化するビジネスの世界にあって、既存事業は放っておくとあっという間に古びてしまい、ライバルやスタートアップに追い越されてお株を奪われかねません。時代の流れや業界のトレンドに合わせて遅れることなくアップデートを繰り返すことで、収益の維持やシェア拡大が可能となるのです。そこで、現状を分析しながら大事な変化について見落としがないかを検証したり、さらには競合のビジネスモデルを分析したりするためにも、ビジネスモデルキャンバス(BMC)は極めて有効です。
見える化により情報共有がしやすいため
ビジネスモデルキャンバス(BMC)の「キャンバス」は絵を描くための画材の「キャンバス」と同じです。つまり、絵を描くように必要な情報を一面で見える化することで、新規事業などの考え方や手法、留意点や課題などを、関係者全員で共有しやすくなります。これにより勘違いや温度差をなくし、開発に向けた機動力を高めることが可能になるのです。
ビジネスモデルキャンバスの9要素
それでは、ビジネスモデルの各要素について、詳しく解説しましょう。
顧客セグメント(Customer Segment)
誰に向けて新規サービスを提供するのか、ということです。全世代か若年層か、あるいは50代など限られた層を対象にするのか、さらに趣味や性別、職種など属性を絞って売り込むのか、などターゲットを具体化します。この相手は、個人だけでなく法人となることもあります。提供先として誰を想定するかで、プロモーションや媒体、販路、協力パートナーなどが異なってきます。
提供価値(Value Propositions)
価値提案ともいわれ、新たな製品やサービスが、ターゲットにとってどれだけの価値を持つかを、現実レベルで想定します。機能性、利便性、快適性などニーズや困りごとをどの様なアプローチでどこまで解決できるのか。ここでミスマッチが起きると、新事業の存在意義が根底から揺らぎます。
「提供価値」は、マトリックスの中央に位置し、6項目と隣接しているだけあって、リソースにも販路にも、コストやプロモーションにも強く影響を与えます。逆にそれら別の項目の方針や精度が、「提供価値」の水準を少なからず左右するともいえるでしょう。
販路(Channels)
チャネルのことで、新サービスをどのようにターゲットに認知させるのか、そして、どの様なルートや手段で届けるのかについて考察、検証します。ネットやSNS主体の告知、提供は実店舗で体験型とする、といった具合です。さらに、実際に使ったときの感想やレビューの集め方、アフターサービスの方法にまでいたります。
これはそのまま、顧客とどの様な関係を維持するのか、売上金をどの様なルートで回収するのか、といった別の項目とも密接に関わってきます。
顧客との関係性(Customer Relationships)
新規顧客を集めるのか、それともすでに顧客として繋がっている相手との関係を深めるのか、といった点を掘り下げます。これには、顧客数や売上など過去のデータの分析と、顧客との関係性の違いによる売上の見積り額の差などを細かく計算する必要があるでしょう。
新規顧客のイベントへの誘導、SNSによるコミュニティの構築、アフターサービスの充実による既存顧客との関係維持など、目的とする顧客との関係の範囲や深さによって、戦略も異なってきます。
収益の流れ(Revenue Streams)
リースやレンタル、サブスクリプション、ライセンス料、分割支払い、会員費など、どのようなメカニズムで収益を上げるのか、ポイント制を導入するなら、その仕組みや見積もりも視野に入れなければなりません。
ビジネスモデル構築の肝となる項目のため、試算はシビアに行う必要があるうえ、ターゲットがもっとも抵抗なく支払いに応じるシステムつくりやアプリ開発が求められます。
キーリソース(Key Resources)
ヒト・モノ・カネ・情報のリソースをどの様に、どれくらい集めて、分配、配置、提供していくのか、を設定します。すでにある現預金、土地や建物、人材、知的財産権などもあれば、
これから受けなければならない融資や確保しなければならない外部人材もあるかもしれません。
とくに近年は、国内のIT人材不足が指摘されているため、AIやメタバース、ブロックチェーンなど、先進的技術に精通したエンジニアの確保は容易ではありません。単なる頭数の見積りではなく、必要に応じてどのレベルの人材をどこから何人確保するのかといったところまでしっかりと突き詰めておく必要があるでしょう。
キーアクティビティ(Key Activities)
新規事業を推進するにあたって必要なすべての活動を洗い出します。上記のリソースの確保、ソフトやアプリの開発、プロモーションや営業活動、各種根回しにいたるまで。何をすべきかが絞れれば、そこに投入する人材の数やスキル、コストや時間なども自ずと明確になるはずです。
キーパートナー(Key partner)
自社のみで展開するのが難しい場合は、外部の企業や人材とも積極的に連携していく必要があります。ジョイントベンチャー、コンソーシアム、アライアンス、ひいてはM&Aにいたるまで、その方法はさまざまです。自社と限りなく利害が一致する格好の相手と協力できれば、新規事業成功の可能性は確実に高まります。
コスト構造(Cost Structure)
最小限のコストで最大限の成果を出すのが、ビジネスの基本です。新たな価値を提供するのに必要な、システム構築、リソースの確保、プロモーション、パートナーシップの締結、その他あらゆるアクティビティにかかるコストを見積もります。もちろんそれが予算オーバーするようであれば、コスト構造そのものを根本的に見直す必要があります。これを誤ると新規事業の存続が根底から危ぶまれることになりかねません。
ビジネスモデルキャンバスの作成手順
ビジネスモデルキャンバスには、とくに決まった作成手順はありません。意図している事業によって、きっかけや切り口はさまざまだからです。ある項目の一部を埋めて、そこに関連する別の項目の一部を埋める、というプロセスが現実的ともいえるでしょう。
ただ、ビジネスモデルキャンバス(BMC)は、まったく一から新規に事業を立ち上げる際にとくに効果があるため、基本的には、「顧客セグメント」と「提供価値」から定めるのがよいでしょう。つまり、「どんな商品やサービスを誰に届けるのか」という主軸を固めるのです。これが決まると、自ずと、「どんなルートで」「何を使って」「誰と一緒に」「どれくらいの予算で」といった他項目の中身が明確化し、各課題も浮き彫りになってきます。
繰り返しますが、新規事業は無から有を生み出す大変な作業のため、ビジネスモデルキャンバス(BMC)も一度で理想的な完成系を作りだすのは難しいでしょう。書いては決してまた書いて、の連続かもしれません。ただ、その様に何度も試行錯誤を繰り返すことで、思考や議論が深まり、各項目が洗練されて行きますから、最終的に質の高い事業計画書に落とし込めるに違いありません。
まとめ
実現可能性が未知数な中、新規事業の構想を一から練り上げていくのは大変な作業です。そこでビジネスモデルキャンバス(BMC)がおすすめです。ビジネスモデルキャンバス(BMC)を活用すれば、思考が最短でまとまり、わかり易く視覚化できるため、事業計画の策定がスピーディーにはかどります。もちろんプレゼンの大きな味方ともなるでしょう。
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