2022.06.16
STO

STO とは?誕生した経緯やメリット・今後の展望

ブロックチェーンを活用した資金調達の方法として注目されている STO (Security Token Offering)。その特徴は、ST(セキュリティトークン)が、単なる暗号資産ではなく、デジタル証券をトークン化したものである点にあります。

株式や社債などの有価証券は、証券会社を通して取引するのが一般的です。IPO(新規公開株)による資金調達も、同じく証券会社が仲介者となります。しかし、STOは、ブロックチェーンが自動的に仲介役となるため、スピーディーかつ低コストなうえ、堅牢性が高いのでセキュリティ面でも安心です。

今回は、これから注目度がさらに高まると期待されるSTOの意味や、メリット、これからの展望などについて詳しく解説します。

STO とは

STO は、「Security Token Offering」の略で、デジタル化した有価証券をブロックチェーン上で発行して資金調達する仕組みを意味します。この場合の「Security 」は、「安全」ではなく、「有価証券」の意味で使われているので、誤解しないでください。

つまりSTOは、企業が発行したり所有したりする株式や社債、不動産、さらには特許から著作権にいたるまで、様々な資産をデジタル化して、ブロックチェーン上で投資対象とするのです。STOの基盤となるブロックチェーンはイーサリアムのため、スマートコントラクトによって投資資金を受け取り、配当も自動的に支払うことが可能となります。

セキュリティトークンは、ビットコインを代表とする暗号資産の様に、それ自体が何らかの価値を持つユーティリティトークンではなく、あくまで有価証券の価値をトークンという形で表したものです。用途も仕組みも似て非なるものがあり、暗号資産取引所で取引の対象にもなりません。

暗号資産は、特定の資産による裏付けがありませんが、一方のセキュリティトークンは、改正金融商品取引法で「電子記録移転権利」として定義されており、株式や債券と同等の扱いをうけるため、資産による裏付けもあります。金融機関が扱える金融商品であり、国が証券として正式に認めているので、暗号資産に比べるとセキュリティトークンの方が格段に安全性や信頼性が高いといえるでしょう。

STO が誕生した経緯

STOの誕生を語るうえで欠かせないのが、それ以前から存在していた ICO(Initial Coin Offering)です。ICOもSTOと同じく、ブロックチェーンを活用した資金調達の一種です。プロジェクトの企画者が、ホワイトペーパーを発行してその構想を公開し、内容に賛同した投資家が、新規に発行される独自トークンを別の暗号資産を使って購入します。

プロジェクトは特別な審査なしでだれでも企画できるうえ、発行するトークンも資産による裏付けは一切必要ありません。その手軽さゆえ2017~2018年頃に世界中で相当数のICOが行われました。しかし、中身が見せかけだけのいい加減なプロジェクトや資金を調達すると音沙汰がなくなるといった詐欺事件が横行し、各国で厳しい規制が敷かれるようになると、ICOは急速に下火となります。

この苦い経験を踏まえて、一定レベルの審査をパスした企業に限って発行が許される、しかも実体のある有価証券をデジタル化したセキュリティトークンによる資金調達法が生まれました。ICOよりは手続きが難しく、かといってIPO(新株公開株)ほど時間も手間もかからないSTOは、スタートアップをはじめとする早急な資金調達が必要な企業にとって非常に利便性が高いといえます。と同時に、資金を提供する側の投資家を保護する安全性の高い仕組みをもち合わせている点も、STOの大きな存在意義なのです。

ちなみに、STOと期を同じくして登場し、2021年に目に見えて開催件数が増えた資金調達方法に「IDO(Initial DEX Offering)」があります。イーサリアムブロックチェーンを基盤とする管理者不在の分散型取引所(DEX)で暗号資産を上場させて資金を集めます。

取引は、すべてスマートコントラクトによって自動化され、その意味ではSTOと似ていますが、発行するのはSTOと異なり、ユーティリティトークンです。審査がなく、だれでも開催可能で、投資する側も身分証明が不要なため参入しやすい特徴があります。ただし、DEXは金融庁から認められておらず、法整備も満足になされていないため、有価証券と同等の扱いをうけるセキュリティトークンをベースとしたSTOと比べると安全性に欠ける面が否めません。

関連記事:IDOとは?ICOとは違う?IDOの手順を徹底解説

STO のメリット

ここからさらに、STOのメリットについてさらに掘り下げていきましょう。

メリット1.  24時間いつでも取引可能

通常の証券取引は、平日の9時~15時までとなります。ところがブロックチェーンが基盤のSTOは、24時間・365日いつでも取引可能なため、夜中や早朝、さらに休日でも関係なく好きなタイミングで売り買いできます。

メリット2. 即時性がある

STOは、ブロックチェーン技術を基盤としており、クライアントサーバーを介さずすべての端末がP2Pで繋がっているので、各種の取引を即時決済することが可能となります。通常の証券取引では、代金決済は売買が成立した約定日から起算して2営業日後が原則です。つまり買い手が、購入した株式や債券を保有できるまでに丸一日以上を要するわけです。しかも約定日が金曜日であれば、月曜日まで決済日が長引きます。その点、STOは、約定と決済がほぼ同時のため、大変スピーディーな取引が可能となるのです。

メリット3. データ改ざんができない

STOでは、すべての取引はブロックチェーン上に記録したうえで公開されます。データの書き換えや修正をするには全ノードの承認が必要となるため、改ざんはまず不可能です。この堅牢性ゆえ、ブロックチェーンは、誕生以来一度もハッキング被害に遭ったことはなく、悪意を持った第三者にも十分に対抗できます(暗号資産がらみのサイバー被害は、ブロックチェーンではなく暗号資産取引所のシステムがハッキングされたことによります)。

メリット4. 強固な安全性

STOは、ICOとは異なり実体のある資産をデジタル化の上トークンとして発行します。セキュリティトークンは、有価証券と同等の扱いを受けるため、STOは実施国の法令に準拠するかたちでの資金調達となります。資産的裏付けのない暗号資産とは、法律的見地からも明確に区分されているため、安全性が高いといえます。

メリット5. 資産の分割が可能

従来、有価証券は手間とコストの問題から分割所有は行われてきませんでした。しかし、セキュリティトークンであれば、資産を小口化して分散所有することが可能となります。しかも特筆すべきは、株式や債券だけでなく、土地や美術品、著作権など、従来なら分割が物理的に不可能だった資産の所有権をも分割できる点です。さらにブロックチェーンによって二次流通も可能となるので、投資の可能性は大きく広がり、個人投資家にとっても参入障壁が下がるため市場の活性化が期待できます。

メリット6. 取引手数料が安い

STOでは、すべての取引がスマートコントラクトによって自動的に実行されます。結果として取引者同士の距離が縮まり、従来存在した仲介業者への手数料が要らなくなる分、大幅なコスト削減が可能となります。

STO の現状と今後

上述のメリットを見るだけでも、STOの将来性は非常に高く、今後のビジネスチャンスの広がりも大いに期待できます。ただ、デジタル証券はすでに存在しているため、証券をトークンとして発行するだけでは、ややインパクトに欠ける面が否めません。それより、本来分割できない土地やアート作品などの現物資産を小口化したり、それらを二次流通で売買できたりといったSTOならではの特長が広く認知されて、現実レベルで投資できる環境が整えば、新たなパラダイムの開拓も見えてくるでしょう。

海外では、すでにSTOが普及し始めていますが、国内ではまだ黎明期といった段階です。ただ、STOの標準化に向けた取り組みが官民をあげて着々と進んでいるのも事実で、その象徴ともいえるのが、2021年3月にSBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループが共同設立した「大阪デジタルチェンジ株式会社」の存在です。

同社が目指すのは、証券会社が運営するコンピュータシステムを活用して資産取引ができるようになるPTS(私設取引システム)を使ってSTO案件を扱うことです。2022年4月18日に、第一種金融商品取引業者として正式登録を済ませており、次にPTS運営に係る認可を取得できれば、早くて2023年春ごろにはセキュリティトークンの取り扱いがスタートする見込みです。

空き家をリノベーションのうえ宿泊施設として運営するプロジェクトなど、すでにSTOの事例は少しずつ増えているのが現状です。しかし、その規模は小さく、投資対象として投資家から広く市民権を得るまでには至っていません。

例えば、リヒテンシュタインでは、イタリアの高級車「フェラーリ」の限定車を裏付けにしたセキュリティトークンを欧州の投資家に向けて発行しました。当該車種の価値が上がって売却された際には、その売上金が投資家に分配されるという仕組みです。他にプロスポーツ選手の高額な契約金を活用したSTOも存在します。この様な事例に習えば、日本でも、例えば世界的に価値が認められているアニメやゲームに関連する資産をトークン化できれば、STO市場をワールドワイドに押し上げることも夢ではないでしょう。

官民挙げての普及活動がどこまで奏功するかが、間違いなく今後のSTO普及における重要な鍵となるため、その動きからますます目が離せません。

まとめ

STO は、安全性、迅速性、透明性、革新性、さらに低コストと、従来にはない資金調達法としてブレークスルーとなる可能性は十分にあります。とくにIPOが難しいスタートアップにとっては、絶好の資金調達法となるに違いありません。

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