中央集権的存在を介さずに暗号資産を使った金融取引ができるDeFi(分散型金融)。そのエコシステムの基盤の一つとして欠かせないのが、「 流動性プール (Liquidity Pool)」です。
今や無数の暗号資産が、世界中で売買を繰り返されていますが、いずれも上場にあたって重要課題となるのが、「流動性」です。暗号資産のみならず、株や債券、不動産など、すべてのマーケットは売り手と買い手が存在し、需給バランスが取れているからこそ健全な取引が成り立ちます。過熱気味ともとれる頻繁な売買により高騰する暗号資産がある一方で、一定の流動性が確保できずに消え去った暗号資産は数え切れないほど存在します。
そこで今回は、DeFiの命綱ともいえる「流動性プール」について、仕組みや動き方を解説します。これから暗号資産取引を始めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
暗号資産取引における流動性とは
「流動性プール」の説明の前に、暗号資産取引における「流動性」について簡単に説明しましょう。
暗号資産は、CEX(中央集権型取引所)やDEX(分散型取引所)といった専用の取引所を介して、24時間・365日休みなく、今この瞬間も取引が行われています。ビットコインやイーサリアムなど、ネットを検索すれば、刻一刻と価格が変動しているのが分かるでしょう。
暗号資産の価格が変動するのは、トレーダーによって売買が行われている証拠です。これを「流動性」といい、取引が頻繁に行われている状態を「流動性が高い」と表現します。逆に、取引が少ない状態は「流動性が低い」と言います。
暗号資産市場における価格変動は「ボラティリティ」と呼ばれ、一般的に流動性が低いとボラティリティが高く、流動性が高いとボラティリティは低くなります。後者のボラティリティが低い状態の方が、買い手がつきやすく、暗号資産を売りやすいため、市場としては安定します。一方、ボラティリティが高い場合は取引が成立しにくいため危険です。
つまり、すべての暗号資産プロジェクトは、流動性が高い(=ボラティリティが低い)状態を良しとしており、多くの投資家もそこに期待を寄せて資金を投入します。
DEXに欠かせない!流動性プール(Liquidity Pool)とは?
「流動性プール(Liquidity Pool)」とは、DEX(分散型取引所)に預けられた暗号資産トークンの集まりを意味します。
DEXでは、流動性を高めるために、リクイディティ・プロバイダーと呼ばれるユーザーが、あらかじめ2つ(3つ以上の場合もある)のトークン(仮にAとBとする)を1:1の比率で同額ずつ組み合わせて流動性プールに預けることによって市場形成します。多くの投資家がトークンを提供すれば、流動性プール内のストックが増え、流動性が高まるので取引は活発化します。
流動性プール内に十分なトークンがあることで一定の流動性が確保されると、暗号資産が欲しい買い手は、売り手を相手ではなく、流動性プールを相手に取引を行うことができます。トークンAが欲しい場合は、自分が保有するトークンBを流動性プールに加えて、そこからトークンAを引き出す、という具合です。これなら、必ずしもトークンを買いたい瞬間に売り手がいなくても取引が成立します。
以上が、流動性プールの仕組みと役割です。
DEXを可能にしたAMM(自動マーケットメーカー)
流動性プールを使った取引がDEX上で可能となるのは、スマートコントラクトがプログラミングされているからです。スマートコントラクトとは、あらかじめ設定されたルール通り自動的に取引を行うようにプログラミングされた仕組みのことです。
DEXが登場する以前は、企業などの中央組織がマーケットメーカーとして取引を仲介し、売り手と買い手のマッチングを行う「オーダーブック方式」を基盤とするCEX(中央集権型取引所)が一般的でした。しかし、オーダーブック方式では、マッチングに時間がかかり、手数料も多く発生するため、とくにスピードが重視され、かつ手数料の高さが問題視されるイーサリアム上では、現実的ではありませんでした。
そこで新たに開発されたのが、AMM(自動マーケットメーカー)方式です。中央集権的なマーケットメーカーを介さずに、スマートコントラクトを活用してすべての取引が自動的に成立するという画期的な仕組みです。DEXでは、流動性プール内の複数のトークンの各合計値を常時一定にするように、AMMのアルゴリズムが設定されており、価格も自動的に決定します(一部、オーダーブック方式のDEXもあります)。
このAMMを基盤としたメカニズムにより、DEXだけでなく、最近取引高が飛躍的に伸びているDeFi(分散型金融)のすべて商品(融資・レンディング・保険など)が、イーサリアムブロックチェーン上で稼働できるのです。
イールドファーミングが流動性プールを支えている
あらゆるDeFiサービスは、一定の流動性が確保されなければ運営できないので、リクイディティ・プロバイダーからトークンの提供を受けるためにいくつかのインセンティブを用意します。
リクイディティ・プロバイダーは、自身の暗号資産を提供する見返りに、新規ガバナンストークンや利息、さらにトレーダーがDeFiサービスを利用した際の取引手数料を流動性全体に対するシェアに比例して受け取ることができ、これを「イールドファーミング(または「流動性マイニング」)」といいます。
ガバナンストークンを保有すると、プロジェクト内のルール変更など、重要な意思決定に対する投票権を獲得できるメリットがあります。加えて、数十~数千%にも及ぶ例がある破格の利回りも、リクイディティ・プロバイダーにとっては大きな旨味があるといえるでしょう。長らく続く世界的な超低金利の状況にあって、銀行なら1%も利息が得られないことがほとんどであることを鑑みると、その圧倒的高さは驚異的です。
魅力あるインセンティブによって潤沢なトークンが集まり、多くの投資家がそのトークンを売り買いすれば、その動きに呼応してガバナンストークンや利息、取引手数料が上昇します。すると、DeFiプラットフォームの流動性は確実に高まって、魅力ある市場へと発展していきます。
そして、例えば、暗号資産業界内で流動性プールを普及させた立役者である「Uniswap」のように、活発なトランザクションが続くと、流動性が十分に確保されたという認識のもと、イールドファーミングが一時的に停止されるケースもあるのです。
イールドファーミングの注意点
イールドファーミングは、投資家たちにとって大変メリットが大きな反面、デメリットも存在します。
流動性プール内のトークンは、他の暗号資産の例にもれず常に価格が変動しています。仮にトークンAとBのペアがデポジットされているとすると、トークンAが値上がりすれば、AMMのリバランスによってその数は減らされ、トークンBの数量が増加。この状態で両トークンを解除して引き出すと、そもそもトークンを提供せずに保有している方が、高い利益を得られたという「インパーマネントロス(変動損失)」が生じる恐れがあります。
また、DeFiのスマートコントラクトにはバグが発生する可能性も否定でません。現に、その脆弱性を突いた大きなハッキング事件が起こったことがあります。イールドファーミングにおける天文学的な利回りの高さに多数の投資家が引きつけられて、DeFi市場は、いささかバブルの様相を呈しています。しかし、その裏には少なからずリスクも潜んでいることを自覚する必要があるでしょう。
まとめ
「流動性プール」は、世界中の投資家やスタートアップから熱視線が送られているDeFiを支えるコアテクノロジーの一つです。そして、この流動性プールの基盤となるのが、イールドファーミングです。
イールドファーミングにより十分なトークンが集まり、魅力あるDeFiサービスが上手く軌道に乗れば、関連するトークンが値上がりして、プラットフォーム内に好循環が生まれます。このメカニズムが理解できれば、次々ローンチされるDEXをはじめ、レンディングや予測市場、マネーレゴなど、今後さらに市場が拡大するとされるDeFiサービスが、より身近に感じられるはずです。
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