まったく新たなプロジェクトを始動したりシステム開発を行ったりする際に、いきなり本丸に手を付けるのは無謀で危険です。成功により近づくためには、それ相当の段階を経て前に進む必要があります。
そこで、重要となるのが「PoC（概念実証）」です。構想段階にある新しい理論やアイデア、技術などによって、真の課題解決に結びつくかを現実に近い環境で簡易的に検証することを意味します。PoCを行えば新規ビジネスの利点や問題点が浮き彫りになるため、計画がよりブラッシュアップされるとともに、早い段階で軌道修正したり無駄を省いたり、構想そのものを一から見直したりすることが可能です。
スピーディーな開発や製品化が求められる現代において、途中まで進んだプロジェクトを中止するのは時間とコストの無駄です。その意味でもPoCは、市場への新規参入をめざすスタートアップやDXの推進を課題とする企業にとって欠かせないプロセスといえるでしょう。
今回は、そんなPoCについて、詳しくお伝えします。
PoCとは
POCとは、「Proof of Concept」の略で、読み方は「ポックまたはピーオーシー」、日本語では「概念実証」と訳されます。読んで字のごとく、新しい技術やプロダクトのアイデアや考え方が、どこまで正しいのか、前に進めたり投資したりする意義があるのか、について検証することを意味します。
よい構想に思えても、実社会でニーズがなければ絵に描いた餅で終わります。想定外なトラブルの連続で計画が頓挫すれば、人件費や開発費、時間の無駄により、経営に甚大な悪影響をもたらしかねません。そのような経営上の不確実性によるリスクを回避するためにも、理論や設計だけでなく、予算面や人材、技術的観点からも実現が可能な開発か、効果を生む妥当な計画かを簡易的な環境で精査・実験するのです。
「こんなものがあれば画期的だ」「あんなことができたら市場価値が高まる」といったアイデアが浮かんでも、そのままではビジネスになりません。「何を使って」「どのように」「どれくらいの予算で」作り上げるのか、を最低限の形にして可視化したり、実際に手にとったりすることで構想が現実味を帯びてきます。社内やクライアントとの間でも、現物が目の前にあり、シミュレートできれば、賛同を得られたり、さらに新たなアイデアが追加されたり、勘違いや問題点を洗い出したりすることができるのです。
プロトタイプやMVPとの違い
PoCによりプロジェクトや新規ビジネスの方向性が妥当と判断されたら、つぎにそのコンセプトをより具体化するプロトタイプ作成のフェーズに移行します。しばしば、PoCとプロトタイプが同義で扱われることがありますが、この点はとくに決まった定義がないため、業界や開発内容によってまちまちです。
大切なのは、プロトタイプが単なる構想にとどまらず、それに基づいたコンセプトを実際に形に反映した原型や試作品を意味し、実装に向けた非常に重要なステップである点です。プロトタイプがあると、技術的観点だけでなく、デザインや使用感についても関係者間で議論を深めることが可能になります。すると、プロダクトとしてリリースするためにさらに必要な要素や問題点が浮き彫りになります。
プロトタイプは、いわば社内やクライアントなど関係者だけの「内輪の話」です。内輪ウケではビジネスとしての成功はおぼつかないでしょう。そこで、市場の声を聴いて、マーケットでの価値を問うのが「MVP」になります。
MVPは、「Minimum Viable Product」の略で、もっとも核となる機能のみを盛り込んで市場に出し、ユーザーからのフィードバックを得る工程を意味します。つまり、内輪ウケだった製品を外部の目にさらして、「ここがいい」「ここはダメ」「買う気にならない」「これなら投資しよう」など、賛否両論、様々な意見や要望を収集するのが目的です。
機能を最小限にするのは予算を少なく抑えるのが主な目的で、この段階で開発が難しいとなった場合に、中止ややり直しが効くように予防線を張る意味があります。
参考：「【スタートアップ必見】MVP開発とは？MVP開発のメリットや注意点を徹底解説！」
PoCのメリットとデメリット
続いて、PoCのメリットとデメリットについて解説しましょう。
まず、メリットからですが、主に
- コスト削減できる
- コストパフォーマンスが精査できる
- 投資やリリースの意志決定が容易になる
などが考えられます。
コストが削減できる
PoCは、実際の使用環境を想定して実験するものの、そのスケールは簡略化されているためコストが最小限で済みます。まったく新しい理論や技術を活用して開発を進めるとなると、今までにない設備や材料、人材の確保、さらに新たな取引先の開拓も必要となり、そこに莫大な資金を投入しなければならないこともあります。
しかし、PoCならそこまで踏み込むことなく大まかな方向性を予測できるので、人件費や時間の無駄を抑えられます。
コストパフォーマンスが精査できる
PoCによって新たな開発や計画がどれだけの収益につながるかをシミュレーションできるので、費用対効果の検証が可能です。開発は実現ありきではありません。新たな理論や技術の現実性が乏しく、想定以上のマネタイズが期待できなければ、もちろん中止や撤退もありえます。
ある程度資金をつぎ込んで開発を進めてしまうと後戻りするのが惜しくなり、危ない橋をそのまま渡ってしまうケースがあります。しかし、それは一歩間違うと企業存続の危機を招きかねません。資金に余裕がないスタートアップの場合は、とりわけ注意が必要です。
その点、PoCによって的確な実証実験を行えば、失敗の可能性にも早い段階で気づけるので、大きなリスクを負わなくて済みます。成功だけでなく、失敗の芽を摘むという点もPoCの大きな役割なのです。
投資やリリースの意志決定が容易になる
PoCによって費用対効果の詳細が明らかになれば、その後プロトタイプを経て開発を本格化させるか、見直すのかという方針がはっきりとしてきます。もちろんここですべてが決まるわけではありませんが、予算を上乗せしたり、さらに広範囲の関係者に周知したりして、より踏み込んだ開発モードに移行するのかどうか、が議論しやすくなるわけです。と同時に、プロダクトを正式にリリースするのか、まずβ版で様子を見るのか、といった見通しも立てやすくなるでしょう。
逆にいうと、PoCには、重要な意思決定を裏付けるだけの精度の高さが求められるということです。どの様な狙いで、何のために開発をするのか、という基本方針を軸に、効果的なデモンストレーションやシミュレーションを経てこそ、PoCの真の意義とメリットが見いだせるといえます。
次にデメリットを見ていきましょう。
デメリットは、主に
・進め方によってはコストが多くかかる場合もある
・PoC担当者に負担がかかるケースがある
の2点です。
進め方によってはコストがかかる場合もある
PoCは、新しい理論やアイデアを市場で利益を生むレベルにまで落とし込めるか、を探る作業といえます。場合によっては、海のものとも山のものともわからないまま手探り状態でスタートすることもあるでしょう。前例がないだけに実験を繰り返しても答えが見えず、課題が解決できるか皆目見当がつかなくなることも考えられます。すると、振り出しに戻って、違ったアプローチの仕方を試みることになります。
それでも成果が出なければ、また振出しに戻るというプロセスを繰り返します。すると想定以上に時間がかかり、仮にそのまま開発自体が暗礁に乗り上げれば、無駄なコストだけが残ることにもなりかねません。
PoC担当者に負担がかかるケースがある
上記のように確たる成果が見られずにトライ＆エラーを繰り返して時間ばかりが経過すると、上司からのプレッシャーや焦りから担当者に過度の疲労が蓄積することも考えられます。新たな技術や開発に対する期待が強いほど、上手く進まない時の落胆ぶりは大きくなるものです。この場合は、トップや幹部がよほど上手にかじ取りをしなければ、社内に重苦しい空気が漂い、尾を引くおそれがあるので要注意です。
PoCはDXに不可欠！
POCはDXにこそ役に立つことが多いです。DXは単なるデジタル化ではありません。デジタル技術やデータを駆使して、新たな価値創造を行い、企業文化を変革して競争優位にたつことが、真の目的です。従来のしきたりや業界の常識にとらわれていては、本当の意味でのDXは成し遂げられません。だからこそ、いまだに多くの経営者にとっては、何から手をつけて、どこを目指せばよいのかわからない、というのが正直なところかもしれません。
そこで、PoCの出番です。DXが何かがはっきり理解できず、曖昧なイメージだけが先行しているとすれば、それを具体的に可視化したりシミュレーションしたりしてDXの糸口をつかめるようにするのが、PoCの役割です。新しい考え方や技術が自社やそのクライアントに合ったものなのか、インフラの構築や予算、人材の確保は可能か、などを現実ベースで検証するPoCは、PDCAサイクルの起点として不可欠といえるでしょう。
新型コロナのパンデミックがデジタルシフトを加速させるなか、DXは待ったなしの重要課題となりました。先進的なアプリ開発やAIの導入、テレワークへの大幅シフト、ブロックチェーンの活用やメタバースによる収益化など、今までにない施策を大胆に打ち出すことで、今後の可能性が見えてくると考えられます。その第一ステップとして、PoCの重要性ははかりしれません。
まとめ
今までにない画期的な理論やアイデア、技術を用いたプロダクトをリリースして新たに収益をあげるのは、ビジネスの醍醐味です。しかし、前例がない以上、必ず成功するという保証はどこにもありません。そこでPoCの存在が大きくものを言います。
レリパでは、システムやアプリ、プロックチェーンの開発においても、PoCの段階からお客様を全面的にサポートいたします。一歩ずつ丁寧にお客様とともに歩みを進め、新たなビジネスやDXの成功を後押ししてまいります。ご用命の際には、ぜひお声がけください。
